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楽しさと美しさを「志向」することの重要性……湯浅健二【浦研プラス】

長年レッズを追いかけ続けるサッカーライター島崎英純さん、ミスターレッズ福田正博さんが浦和レッズについて熱く提言を行う「浦研プラス」
今回、浦研編集部の許可を頂き、有料記事の一部を転載させて頂きます。

【寄稿コラム】楽しさと美しさを「志向」することの重要性……-湯浅健二浦研プラ

 

『オマエッ!!』

 

なんで、あんな無様な守備サッカーをやるんだ!!

 

廊下に響きわたるダミ声。

 

声の主は、ドイツサッカー史に残るスーパープロコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラー。その檄をブチかまされたのは、現役のブンデスリーガ監督だった若手プロコーチだ。

 

当時ヘネス・ヴァイスヴァイラーは、ブンデスリーガ名門のメンヘン・グラッドバッハ監督を務めるのと平行して、西ドイツサッカー協会と西ドイツ文部省が主催する、プロコーチ養成コースの校長として手腕を発揮していた。

 

ということで、その若手プロコーチも、ヴァイスヴァイラーの教え子だったというわけだ。

 

後に、ヴァイスヴァイラーが私に語っていたのだが、彼は、その若手プロコーチに、大いなる期待を抱いていたということだ。だからこそ厳しい言葉をぶつけたのである。

 

またヴァイスヴァイラーは、西ドイツメディアでも目立っていたその若手プロコーチを利用し、サッカー界だけではなく、一般社会の共通理解も深めようとしていた。

 

そう、勝つこと「だけ」をターゲットにした守備的サッカー(リアクションのカウンターサッカー!?)では、ドイツ(プロ)サッカーの明るい未来はないという確信のもとに……。

 

以前のブンデスリーガでは、「サッカーの楽しさ、美しさを追求していたら勝てない……、そしてすぐに首が飛ぶ……」という発想が主流だった。

 

だから、特に若手のプロコーチ連中は、守備の組織を固め、そこからカウンターを繰り出していくという、「結果を追求する手堅いサッカー」に引き寄せられる傾向が強かったのだ。

 

ただ、それではサッカー観戦の魅力が半減してしまうし、プレーしている選手にしても、楽しみや喜びを見いだせないことで、進化ベクトルに乗り難い。

 

そこに危機感をもった、ヴァイスヴァイラーも含む西ドイツサッカー界の重鎮が、若手プロコーチだけではなく、サッカーファンも含めて啓蒙することに尽力していたというわけだ。

 

そう、彼らは、リスキーで(そうであるからこそ!)魅力的な攻撃サッカーでも勝ち切れるようになる……」という感性の浸透こそが、ドイツサッカー発展の原動力になると確信していたのである。

 

その甲斐あって、ブンデスリーガが隆盛を極めただけではなく、(西)ドイツ代表も、進化しながら、何度もワールドチャンピオンに輝いたのである。

 

イレギュラーするボールを足で扱うことで、不確実な要素が満載のサッカー。だからこそ最後は、勇気と創造性をもって、「自由」にリスクへもチャレンジしていかざるを得ない。

 

とはいっても、たしかに、不確実だからこそ、選手たちのプレー内容を「規制」することで、失点しないように守備を強化するやり方もある。

 

ただ、「それ」が過ぎたら、サッカーのもっとも重要な(社会的!?)価値である「自由」を奪い去ってしまうことになるのである。

 

ドイツのプロサッカーで活躍する友人たちは、そんな、勝つこと「ばかり」を追求するサッカーを、戦術(規制)サッカーと呼ぶ。

 

逆に、前述した、攻守ハードワークとリスクチャレンジ豊富な攻撃的チーム戦術を「解放サッカー」と呼び、勇気をもって、それを志向するのである。

 

我々プロコーチの本質的な役割は、観る者と、やる者の双方が、喜びと楽しみに溢(あふ)れる「美しさ」を体感できるようにモティベートすることなのかもしれない。

 

私のドイツ(コーチ)留学は6年間に及んだ。

 

そこで学んだ、もっとも大事なコンセプトは、サッカーから自由(選手たちの主体性!?)を奪ってはいけないということだった。

 

そしてそのために、選手が、勇気をもって「自由に」リスクへもチャレンジしていくようにモティベートしなければならないということだったのである。

 

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