コラム

『(浦和の勝負強さは)クラブの歴史や辿ってきたクラブの道がそうさせるのかな』Jリーグ浦和vs鳥栖【郡司聡の対戦相手から見た浦和レッズ】

▼狙い通りだった得点、警戒していてもやられてしまった失点
結果的に後半のアディショナルタイムに喫した失点で敗れたものの、サガン鳥栖の主将・福田晃斗が試合後に残した言葉は、決して強がりではないだろう。

 

「埼スタでの試合では、押し込まれて引いてセットプレーとかで点を取れればという戦い方がこれまでの鳥栖だったと思いますが、GKからボールを保持しながら自分たちの時間帯を多く作れたことは大きな変化だと思います」

 

ルイス・カレーラス監督からチームの指揮権を引き継いだ金明輝監督は、就任後リーグ戦で3連勝に導き、鳥栖は復調しつつあった。スタートのシステムはオーソドックスな[4-4-2]。大槻毅監督率いる浦和レッズの特徴を選手たちへ落とし込んだ敵将は、CBとボランチ間のコンパクトさを意識しながら中央を閉じることを強調。またウイングバックから反対サイドのウイングバックへ対角のクロスを入れられることで守備陣は後ろ向きの対応を強いられるため、選手たちはそうした形を警戒するように口酸っぱく指摘されていたという。なお、オフェンス面の狙いとしては、ウイングバックの背後のスペースを効果的に生かすことを視野に入れていた。

 

0-0で迎えた17分、左ウイングバック宇賀神友弥の背後のスペースへ、CB高橋祐治がフィードを供給し、金崎夢生がそのスペースでボールを受けると、金崎のクロスに小野裕二と趙東建が飛び込んだ。このチャンスは実らなかったものの、直後の18分。あらためて左サイドでのスローインから攻撃の形を再構築した鳥栖は、その過程で福田がゴール前に上げたクロスを安庸佑がスライディングで流し込み、先制に成功した。「安い失点をしてしまった」とは安のシュートシーンに対応した宇賀神の言葉。アウェイの鳥栖が意図した形でボールを動かし、見事な先制点を奪っている。

 

先制した鳥栖は、浦和の3バックにある程度、自由にビルドアップをさせた上でCBとボランチ間でコンパクトさを保ち、自陣にボールが入ってからボールアプローチを試みる。何度か相手の縦パスを引っかけてカウンターを繰り出す形を鳥栖が作れていたのは、中央を封鎖するというプランが遂行されていた証左だろう。

 

鳥栖のプランどおりにゲームが進む中、31分に浦和がチャンスを生かした。青木拓也からのパスを受けた右ウイングバックの岩武克弥が対角のクロスボールを供給。中央で武藤雄樹、興梠慎三がスルーすると、鳥栖のDF陣はそれにつられる形となり、反対サイドの宇賀神がダイレクトシュートを沈めた。

 

ウイングバックからウイングバックへ。対角のクロスがゴールにつながった流れは、まさに鳥栖が警戒していた形だった。鳥栖にとっての1失点目は、警戒していても止められないクオリティーが浦和にあったということ。興梠と武藤がオトリになる形で生み出した同点ゴールは、ミシャ時代を彷彿とさせる得点シーンと言っては大袈裟だろうか。「警戒していた形だけにもったいない失点だった」。鳥栖の守護神である高丘陽平がそう言ってうなだれた一方で、岩波拓也は「早い段階で追いつくことができたのは大きかった」と後に振り返っている。

 

▼受け入れがたい敗戦
後半は、立ち上がりからオープンな展開となった。その中でむしろ効果的なカウンターを発動していたのは、アウェイチームの方。50分のカウンターは金崎の進撃を岩武が金崎のファウルを誘発して阻み、56分には相手のカウンター返しから安に決定的なシュートを食らったが、ゴールライン上で岩波がブロックして浦和はゴールを割らせなかった。

 

1-1のスコアで試合が推移する中、浦和の大槻監督はオープンな展開を生かせる交代カードを切ることで勝ち越し点のチャンスをうかがっていた。そして最後の最後に切った交代カードがマルティノス。「今日はジョーカーとして起用する」と指揮官から事前に説明を受けていたマルティノスが、後半のアディショナルタイムに輝いた。

 

90+3分、相手の攻撃をはね返し、自陣の左サイドでルーズボールを拾ったマルティノスがロングカウンターを発動。最終的に3人を抜き去り、ゴール前に浮き球のクロスを入れると、三丸拡が被って対処を誤り、興梠が冷静に決勝点を沈めた。内容は良くとも勝ち切れなかった鳥栖にとっては、受け入れがたい結果でもあった。福田は言う。
「全体的にウチのほうが良かったと思いますし、総括すると悔しいという言葉しか見つかりません。自分たちがやろうとしたことをブレずにやりましたが、浦和は内容が悪くても勝ち切る勝負強さがありました。それはクラブの歴史や辿ってきたクラブの道がそうさせるのかなと思います」

 

埼スタで好ゲームを演じても、最後の最後でうっちゃられたアウェイチーム。敵将は試合後の会見で「浦和とは攻撃のクオリティーの差があった」と話し、先制しながらも勝ち切れなかった悔しさを募らせていた。

 

蹴球界のマルチロール・郡司聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクションを経て、2007年にサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部に勤務。その後、2014年夏にフリーランスに転身。現在は浦和レッズ、FC町田ゼルビアを定点観測しながら、編集業・ライター業に従事している。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド・刊)。

コメント

  1. 1 匿名の浦和サポ(IP:163.49.214.74 )

    浦和をリスペクトし過ぎじゃないか?

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    2019年06月18日 12:23

    • 1.1 匿名の浦和サポ(IP:49.98.171.61 )

      同感。福田選手それをいうなら鹿島じゃない

      2019年06月18日 20:37

  2. 2 匿名の浦和サポ(IP:27.94.49.152 )

    今回はツキもあった。これから改革をして欲しいものです

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    2019年06月18日 21:47

  3. 3 匿名の浦和サポ(IP:1.75.244.89 )

    まあ鳥栖と比べたら歴史はあるわな

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    2019年06月18日 23:18

  4. 4 匿名の浦和サポ(IP:114.158.67.8 )

    本音は浦和弱かった、って事でしょ

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    2019年06月19日 03:15

  5. 5 匿名の浦和サポ(IP:211.15.235.105 )

    それにしても、以前の浦和は「勝負弱い」が代名詞だっただけに、相手から「勝負強い」と言われるようになったことには感慨深いものがある。

    このコメントに返信

    2019年06月19日 06:16