コラム

ACLでの美談は本当なのか?北京国安サポに直撃インタビューしてわかったこと【浦議コラム】

5月21日に埼玉スタジアムで行われたACLグループステージMD6『浦和レッズvs北京国安』。
その試合では「フェアに戦いたい」という思いから声と手拍子のみでサポートする北京国安サポーターが話題となりました。
今回、当日スタジアムにも参戦していた北京国安サポーターへ中国サッカーやサポーター文化に詳しいライター・清義明氏が直撃。
ACLでの行いはどのような経緯があったのか、あまり知られていない中国リーグのサポーター事情などを「浦議コラム」にてお届けします。

 

▼サポートもフェアプレー精神で
先日5月21日のアジアチャンピオンズリーグ(以下、「ACL」)のグループリーグ最終戦、浦和レッズと北京国安の試合で、北京のサポーターが横断幕も旗も太鼓も出さなかったという話が中国で話題になっている。

 

グループリーグ進出をかけた大一番の埼玉スタジアムにて、北京国安のサポーターはあえて横断幕も太鼓などの鳴り物も出さず、声だけで応援したというのだ。しかも、その声量は力強く、埼玉スタジアムのいつものビジターチームの小さなエリアから鳴り響いていた。

 

なぜ北京国安のサポーターは、横断幕や太鼓といったサポーターにとって応援の定番ともいえる「武器」をとらず、いわば素手で戦ったのか。浦和レッズのサポーターが北京国安のサポーターから聞いた話がさっそく伝えられた。こういうことらしい。

 

さかのぼること一か月前、浦和にとってのアウェイ、北京でのACLグループリーグの4月9日の試合で、浦和サポーターは中国公安当局から鳴り物や横断幕を出すのを禁止されていた。

 

ちょうどこの時、北京では中国の政治を決定する「全国人民代表大会」が行われており、ただでさえサッカーのサポーターのトラブルが政治的な悪影響を与えることを危惧する中国当局によって、浦和サポーターは厳戒な警備のなかで応援を制限されたというわけだ。

 

この事情はどうやら北京国安のサポーターも同様だったらしく、浦和サポーター側への制限とともに、北京国安のサポーターもナショナリズムを刺激する恐れがあるということで中国国旗を禁止されていたようだ。
(ただし、日本でも中国サポーターは日本でもスタジアムによっては大きな国旗を出すのを制限されているという、広州恒大の中国サポーターの情報もあるのだが。日本に一番渡航し、アウェイ経験があるのは、ACL常連のこのチームである。)

 

こうして、双方ともに中国当局の制限を受けつつ、さらには浦和サポーターがさらに厳しい応援の制約を受けていたことを北京国安のサポーターは聞きおよんだ。それならばこちらも同条件で応援する、ということになり、くだんのとおり浦和ホームでの旗なし横断幕なしの応援と相成ったというのだ。
(※ご参考:埼スタで北京国安サポはなぜ横断幕と旗を使わなかったのか?その理由が感動すると話題に)

 

▼中国の有力メディアが好意的にとりあげる
この話がTwitterで北京国安サポーターから聞いた話として流れると、力強い応援とあいまって、感銘をうけた浦和レッズのサポーターは、このフェアな態度を賞賛。これがTwitterで拡散されると、その話が中国まで伝わり、なんと、このエピソードが中国の国営メディアである環球時報まで掲載されたのである。

 


※参照先:http://world.huanqiu.com/article/2019-05/14934748.html

 

「北京国安のサポーターを日本サポーターが賞賛」と始まるその記事は、この素手の応援に至る事情を紹介し、動画では浦和レッズのサポーターが北京国安の応援を褒めるtwitterのツイートを紹介している。

 

環球時報は中国共産党の直営メディアで、人民日報の海外ニュース版といったところだ。もちろん、たいへんな影響力のあるメディアである。もちろん中国共産党のメディアであるわけで、ふだんの日本に対する政治に関する論調はおおよそ手厳しい。しかし、ことサッカーに関しては事情が違う。

 

中国のサッカーファンは政治に絡む話から離れれば、日本サッカーに非常に強い親近感を抱いている。環球時報もサッカーに関する話題では日本の代表チームやクラブチームに対して好意的ともいえる記事を掲載することがある。

 

「球迷」(サポーター)に至っては欧州のサッカー文化に影響を受けるとともに、日本のサポーター文化にも強い影響を受けている。その中でも特に彼らがリスペクトを隠さない日本のクラブチームが浦和レッズである。

 

▼北京国安サポーターに直撃インタビュー
さて、とはいうものの、この北京国安のサポーターの美談がどこまで本当なのか。

 

「本当の話です。北京国安のアウェイサポーターは半分近くは日本に滞在している留学生やビジネスマンのサッカーファンですが、その人たちが集まるWechat(中国版の「LINE」)のコミュニティで、そういうことになったと北京国安のサポーターから連絡があったんです」

 

こう語るのは、この試合のために来日した北京国安のサポーターのひとり。日本の文化が好きで、これまで日本旅行歴が20回以上もあるという。彼が日本に興味が出てきたのは、なんとコーエー(光栄)のゲームらしく、『三国志』からはじまり、そのつながりで『信長の野望』にハマり、それから日本史を勉強しだしたそうだ。

 


浦和戦後、日本の古城めぐりの旅の途中で、浦和駅近くにあるレッズサポーターの集まる居酒屋「酒蔵力 本店」にて(筆者撮影)

 

もうひとりの北京国安サポーターは日本在住の中国人。やはり、同じように北京国安のサポーターグループから、今回は横断幕も旗も出さないと聞いて、用意していた北京国安の旗を出さなかったとのこと。

 


浦和戦後にすっかり浦和のファンになった北京国安の御林軍の日本在住の中国サポ(写真右)。一緒に写っているのは、日本人のご友人。この試合の日、北京国安のビジター席では、北京国安サポ同士がプロポーズするというエピソードもあったが、「ボクもいつかは・・(笑)」と語ってくれた。

 

では、その北京国安のサポーターグループとはどんなグループなのか。

 

『御林軍(ULTRAS BEIJING)である』と、少したどたどしい日本語だが自信をもって彼は教えてくれた。

 

中国サッカープロリーグはここ10年で見違えるような進歩を遂げている。もう説明の必要はないだろう。爆買いで選手を移籍させ、指導陣までもが欧州の一流を招いて、その強化に努めている。もともと中国はサッカーの人気は高いところなのだが、お世辞にもクラブチームは強いものとはいえず、さらには観客動員も少なかった。また2000年代初頭にあったCリーグの八百長事件も暗い影を落としていた。
ところが、中国経済が巨大な姿を浮上させ、日本を経済的に逆転した頃から事情はかわった。スタジアム環境もよくなり、所得も安定し、さらには欧州の有名選手が続々と中国国内で見られるとなってから劇的な変化を遂げていた。

 

浦和レッズの4月の北京での試合では、平日のナイターにもかかわらず4万人の観客を集めたというが、これは今の中国スーパーリーグでは別に珍しいことではない。

 

日本で飛びぬけた観客動員を誇る浦和レッズの2018年度の観客動員数は一試合平均で約35,000人。一方の中国スーパーリーグではこれを超える観客動員数のチームは、中国ナンバーワンのビッググラブである広州恒大、江蘇蘇寧、重慶力帆、そして北京国安の4チーム。ちなみに一試合あたりの中国スーパーリーグの観客動員数は、すでに日本のJ1リーグの観客動員(平均18,000人)を大幅に超えて、25,000人になろうとしている。筆者が今から15年前に、ACLや東アジアのクラブチームのカップ戦として、かつて存在した「A3」で、中国で観戦していたころから比べると、観客動員は3倍近くになっているのだ。

こうして大きくなっていった中国スーパーリーグは、同時にサポーター文化をも花開かせる。

 


動画:スタジアム前で決起集会→そのままスタジアムに乗り込む→そして熱狂な動画
(動画貼り付けできないため、リンク先をぜひご覧ください)

 

▼中国リーグ最強サポーター集団「御林軍」とは?
北京国安のサポーターグループは、中国Cリーグのサポーターグループでも最強と目されている。

 

「重要な試合では5万人を動員できる」と『御林軍』に所属する日本在住の中国サポーターは誇らしげに語る。『御林軍』の名称は、日本語で言い換えれば「近衛軍」。清朝の時代、最強の兵士が集められた、北京紫禁城の皇帝の親衛隊のことだ。だから彼らの英語名称には「Royal Army(王立軍)」とも記載されている。北京国安のゴール裏には「戦え!紫禁城を守れ!」と書かれた横断幕がある。その背後にいる黒いシャツのサポーターグループが、その『御林軍』である。サポーターグループの組織としての数ならば、同じく北京国安のサポーターグループの『绿色狂飙』(「緑の嵐」)のほうが多いが、中国サポーター曰く「戦闘力ならば御林軍のほうが上」ということらしい。

 

「戦闘力」というのが応援の力だけを意味するのではないのは、コアな日本のサポーターならばすぐに勘づくだろう。前述の北京国安サポーターのひとりがしみじみと語るには、Jリーグは他のチームとスタジアムへの行きかえりの道でも一緒になれてとてもいい、とのこと。つまり北京のサポーターは普段からアウェイの試合では隔離されているということだ。

 

実際、この中国スーパーリーグ最大とされる北京国安のサポーターは、これまで数々の問題を起こしており、つまりそちらの「戦闘」でも名をはせているということだ。特に北京からほど近い港町である天津の「天津泰達」のサポーターとは犬猿の仲でも有名で、この試合はピッチの外でのトラブルが巻き起こることで知られている。

 

この北京国安と浦和レッズであれば、日中最大のサポーターグループ同士の戦いということになるのであろう。武闘派で知られるところも同様だ。欧州や南米の国をまたいだサポーターグループのトラブルにならないところが、なんともアジア的というところなのではないだろうか。

 

▼他サポーターの反応も近い
だからといって、北京国安のサポーターが浦和レッズに示したフェアな応援の「美談」が必ずしもそのままに受け取られているわけでもないことを伝えておこう。

 

日本で中国のニュースを紹介するwebサイト『レコードチャイナ』によれば、北京国安のサポーターのフェアなアウェイでの応援に、「(国安の)サポーターたちはよくやった。国の誇り」「チームよりサポーターの方が立派」と称える声が上がっているとのことだが、普段からこのようなトラブルで名のあがるサポーターであるから、ネットではどちらかという皮肉たっぷりのコメントのほうが多い。

 

中国最大のSNSである微博(Weibo)を覗くと、この記事に「いいね!(讚)」の数が一番ついているのはこんなコメントだ。

 


日本語訳「北京国安は、三点(浦和に)入れられた。略して、安倍晋三www」
※「(国)安被进三」は安倍晋三の「アンベイジンサン」の読みとほぼ同じ。

 

北京国安は、この試合を0-3のスコアで完敗し、ACLのグループリーグを敗退した。そんな負け方をしているのに、何を美談を繰り広げているんだよ!と、からかわれているわけだ。

 

その他も「北京のサポーターが褒められるなんて!」、「0-3で負けなんて褒めるところがないから、ファンを褒めるしかない」、「日本にいるから乱暴なことができなかっただけ」、「(北京のサポが)暴言をいわないことがニュースになっている(笑)」とさんざんである。ネット民のくちがさなさはどこも同じというところである。

 

ちなみに、北京の人は口が悪く、しかも独特の早口でまくしたてるようにしゃべるのが有名で、それは「京罵(ジンマ)」と言われて、他の地域の人からは評判が悪い。日本で言えば、もうなくなってしまいつつあるが、口が悪いことで有名だった江戸っ子の下町言葉みたいなものなのだろう。

 

さて、筆者はこの記事を書くにあたって、その『御林軍』のリーダーに話を聞くべくコンタクトをとった。が、日本の大きなサポーターグループのリーダーへの取材が難しいのと同様に、こちらもやんわりと断られてしまった。リーダーからの伝言は、「日本でまた浦和レッズと戦うときにお話ししましょう」とのこと。どうやらこちらが浦和レッズのサポーターと思っているようだ。ぜひとも、もし再戦が実現したならば、浦和レッズのサポーターの諸氏は話を聞きにいっていただければ。

 

ただし、筆者は北京国安と天津泰達の「華北ダービー」を見に行きたくなって仕方なくなっており、そちらのほうが先になってしまうかもしれないが。

 

清義明

フリーライター。昭和42年生まれ。横浜市在住。近著『サッカーと愛国』(イーストプレス)でミズノスポーツライター賞、サッカー本大賞をそれぞれ受賞。

コメント

  1. 2 匿名の浦和サポ(IP:106.171.40.62 )

    酒井高徳が浦和に加入って本当か⁉️

    このコメントに返信

    2019年06月13日 16:18

  2. 3 匿名の浦和サポ(IP:1.75.239.245 )

    明日6月14日(金)
    チケット不正転売禁止法が施行
    前科 科されるから気をつけて❗
    これで
    チケット発売 10時 瞬殺が無くなる

    このコメントに返信

    2019年06月13日 17:32

  3. 4 匿名の浦和サポ(IP:1.75.239.245 )

    ACL決勝戦、天皇杯決勝戦、ルヴァン決勝戦、リーグ戦優勝懸かる試合
    チケット取れやすくなるかな?

    このコメントに返信

    2019年06月13日 17:34

  4. 5 匿名の浦和サポ(IP:1.75.239.245 )

    チケットゲッター、バイバイ

    このコメントに返信

    2019年06月13日 17:35

  5. 7 匿名の浦和サポ(IP:1.66.101.24 )

    ACL組
    鹿島と広島と川崎、6月14日(金)リーグ戦
    うちは6月15日(土)
    何で?
    jfaの浦和レッズに対する嫌がらせか…

    このコメントに返信

    2019年06月13日 20:23

  6. 8 匿名の浦和サポ(IP:119.173.101.218 )

    高徳いらないでしょ。そんな阪神タイガースみたいなことやめてくれ。ま、そもそも絶対ないと思うけど。
    本田の方がまだ客呼べる分いいわ。

    このコメントに返信

    2019年06月13日 21:00

  7. 9 匿名の浦和サポ(IP:1.66.101.24 )

    酒井高徳、本田圭佑 いらない❗

    このコメントに返信

    2019年06月13日 21:10

  8. 11 匿名の浦和サポ(IP:1.66.101.24 )

    期限付き移籍中のエヴェルトン
    完全移籍になるのかな?

    このコメントに返信

    2019年06月13日 21:13

    • 11.1 匿名の浦和サポ(IP:211.15.235.105 )

      これ、すごく気になるんだよな。
      大槻さんがどう判断するのか…

      2019年06月14日 00:10

  9. 12 PARTY(IP:126.68.94.70 )

    鹿島VS広島のACLは来週火曜日18日に試合ですね。浦和は19日です。川崎はなぜか知りません。

    このコメントに返信

    2019年06月14日 00:02

  10. 13 匿名の浦和サポ(IP:150.246.185.91 )

    オチを最後に持ってくるパターンか。

    このコメントに返信

    2019年06月14日 00:04

  11. 14 匿名の浦和サポ(IP:211.15.235.105 )

    この記事、とても新鮮だったな。
    中国のサッカー文化の一端に触れたような気がした。
    もちろん、中国は広いし、サッカーチームに対する考えは千差万別だろうけど、
    政治は別として、サッカーというスポーツを介してリスペクトし合って、
    お互いに負けないよという思いを抱き会えればよいのではないかと思った。

    このコメントに返信

    2019年06月14日 00:07

  12. 15 匿名の浦和サポ(IP:223.218.182.84 )

    黒シャツ軍団、3点リードされても試合が終わる最後まで良く声出てた。

    このコメントに返信

    2019年06月14日 22:59

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