▼最後の1日までプロサッカー選手として
浦和レッズのチーム最年長にして最古参の平川忠亮が、今季限りで現役を引退することを発表した。彼が引退に際して記者会見で話したことは恐らく多くのメディアでコメントを読むことができるし、最終節のFC東京戦の後には自らの言葉で伝えてくれるはずだ。1回目に優勝したACLでのPK戦の話や2011年の残留争いでの苦悩、背番号への思いや、出会ってきた指導者の話などは、きっと多くのことを思い出させてくれるだろう。
いつでも退団していく選手のニュースは寂しいものだが、プロサッカーのクラブを取材したり応援したりとしていれば、必ずこの時期には避けられない話題だ。それでも、寂しさと同時に感謝の気持ちすら浮かんでくる。
引退を意識し始めたのは2年前だったのだという。それはミハイロ・ペトロヴィッチ監督の指揮下でルヴァン杯を優勝したシーズンの最後の方ということだ。確かに、出場機会の減少やパフォーマンスの低下というものを自身が感じていたという言葉の通りの時期だったのかもしれない。それでも翌シーズンに現役続行を決断。シーズンが始まった後に聞いた話では、選手とコーチングスタッフの間のパイプ役になることも期待しているという言葉があったということだ。
そうした役回りを期待されたことには、「確かに」と思える瞬間もあった。例えば2014年、リーグ優勝までもう少しという時期のトレーニングは、当時の調子の良さを反映して明るい雰囲気だった。そうした中でのゲーム形式で、右サイドから平川が上げたクロスは味方につながらずにクリアされ、中央に入った前線の選手たちプレーをやめてしまった。結果、ボランチがセカンドボールを拾ったのにもかかわらず、バックパスをする結果になる。
その時、平川から「なんで一発でやめてるんだ!」という怒声が飛んだ。普段は物静かで、声を荒げるイメージも全くない選手だが、弛緩した雰囲気を感じたのだろう。要所でチームを締めることができ、試合日に完全に別行動となるメンバー外になった選手たちだけでのトレーニングでも手を抜かない。その姿勢は、無形の財産としてチームに留めたいという思いになってしかるべきものだった。
そうした部分は引退を発表した後も変わることがなかった。例えば27日のトレーニングではサイド攻撃の練習だったが、オズワルド・オリヴェイラ監督は平川がアイディアを出したプレーを褒める場面も、この場はこうしようとアドバイスする場面もあった。平川もまた、それに応えてプレーする。引退が決まった選手と指導者の関係には見えづらかった。それくらい真摯にサッカー選手としてプレーする意志が伝わってきたし、監督もまたチームの一員として扱っている。17年間プレーできた秘訣の1つを「常に大事なのは次の試合だと思ってやってきた。いろいろなカップやメダルをいただいたけど、それを部屋に飾ることは絶対にしなかった」と話したが、その姿勢はきっと最後の1日まで変わらないのだろう。
▼私たちメディアに対しての平川忠亮という人物
私たちのような立場だと試合のプレーを見るだけでなく、その前後の取材を通しても選手たちと関わることになる。中には、何を聞かれても腹立たしいような試合だってあるだろうし、できれば取材を受けたくない日もあるだろう。それでも記憶の限り、彼に声を掛けて「今日はちょっと」という反応が返ってきたことはない。どのメディアからの質問に対しても丁寧に話すし、話題をすり替えて自分の言いたいことだけ話して立ち去ることもない。すごく助けられたことの多い選手だった。
特に驚かされたのは、サイドというピッチ上では端の方に位置するポジションであるのに、全体を把握してプレーしていることが言葉の端々から現れていたことだった。だからこそ、浦和を取材することの多い記者からは“教授”という位置づけの選手として捉えられ、クラブが過去に経験してきた歴史や当時の状況を教えてもらったことも多い。私にしても、スタジアムでチケットを買って試合を見ていた当時のチームの中で、どのような葛藤や喜びがあったのかを話してもらったことは、大きな財産になったという感謝の思いが強くある。
そうしたものは、28日のトレーニング後に“記者会見”となった場にも表れた。当初は囲み取材の場をクラブがセッティングするという予定だったが、想定をはるかに超えるメディアが集まったために、場を整理してみれば記者会見となっていた。それは、彼が残してきた真摯な姿勢を象徴した一幕なのかもしれない。
▼チームや後輩選手が財産として受け継いでいくべきもの
とはいえ、彼の言葉を借りれば「いつか来ること」ではある。大事なのは、彼のような存在が表れ続けるチームであることだろう。例えば、同じ大学卒業後のプロ入りというキャリアの持ち主で、サイドの先輩としてもしたってきた宇賀神友弥は、その背中から学んだことをこんな風に話している。
「学んだ一番のことは、駆け引きだったと思います。相手の良さを消して、自分の良さを出す。それを実践しているとサッカーが楽しくなっていくんです。ミシャさんが来て少しくらいの時(12年の前半)だったと思うんですけど、ヒラさんに『お前、いつまでオレが試合に出てるんだ、早く追い越せ』と。ポジションを争うライバルとかではなく、人間としての器の大きさを知ったし、先輩から掛かって来いと言われて火が付いたというか」
宇賀神がJリーグでの通算出場試合数が節目に来た時に話を聞くと、必ずと言っていいほど「ヒラさんは・・・」という言葉から始まっていた。そうやって後輩に色々なものを受け継ぎ、育ててきたということなのだろう。「自分の中ではヒラさんの背中に手が届くかというところまで来ていると思うけど、そこから少しのところの差は大きいと思う」と宇賀神が話すくらい、多くのものを学んだ偉大な存在であることを表現していた。
引退を発表するリリースに、彼は「やりきった思いが強く、一つの後悔もありません」と記した。それでも、「あえてやり残したことがあるとすれば」という質問に対しては、クラブワールドカップで優勝できなかったことを挙げた。それだけ勝利にこだわり、タイトルへの責任感を持って戦ってきたことの象徴だろう。そうしたメンタリティーもまた、チームに残る選手たちは受け継いでいくべきことのはずだ。
ここ5年ほどで言えば、平川と同期入団の坪井慶介、山田暢久、鈴木啓太といった選手たちの去り際を勝利やタイトルで飾れないできた。常に次の試合の勝利を求めて17年間のプロ生活を送ってきた選手だからこそ、自分のためにではなくチームが勝利し、タイトルを取るための力に少しでもなろうと最後までの時間を過ごすはずだ。だからこそ、彼のためにではなく、彼の力をチームの勝利につなげる試合を続けて有終の美を飾ってほしい思いでいっぱいになった。
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轡田哲朗
1981年10月30日生まれ、埼玉県出身。浦和生まれの浦和育ちでイタリア在住経験も。9つの国から11人を寄せ集め、公用語がないチームで臨んだ草サッカーのピッチで「サッカーに国境はない」と身をもって体験したことも。出版社勤務の後フリーに。
1 匿名の浦和サポ(IP:1.75.2.114 )
平川、
17年
お疲れさまでした
ありがとうございました
2018年11月28日 22:44
2 匿名の浦和サポ(IP:211.15.235.105 )
轡田さんの記事からは、平川選手がプロ意識の塊であったことが伝わってくる。こういう精神を引き継ぐ人は誰なのだろう?誰が監督になっても、誰が加入してきても、勝利のためにビシッと締める人は必要。できれば、平川選手にはこのままチームスタッフとして残って、繋がりの深い大槻組長の下でチームを厳しい目で見続けてほしい。
2018年11月28日 23:17
3 匿名の浦和サポ(IP:49.98.139.35 )
ヒラのプレーだけでなく存在や言葉での周りに与える影響というのは、今までの浦和の選手達の話で感じることができました。。
でもこの記事を読むと、ヒラの浦和への貢献や存在意義は、思っていた以上に大きなものだったことに気付かされます。
このことを知ってしまうと、引退は残念という感情だけでなく、もう少し浦和と選手達のために頑張ってほしいと思ってしまう。
ぜひ、引退後も指導者として浦和に残り、サッカーと人間性のスキルアップに貢献してもらいたい。
2018年11月28日 23:57
4 匿名の浦和サポ(IP:124.141.247.17 )
もう一年やって最後に岩武君に色々教えてあげて欲しかったけどそれだけのために残すのは本人に失礼だし橋岡が台頭してきた今3番手4番手になってしまったから仕方ない。お疲れ様でした。
2018年11月28日 23:59
5 ポン太(IP:1.72.8.178 )
読んでて、ただただ
ジーンと来た。。
ヒラ、お疲れ様です!
ぜひ、天皇杯は優勝で(^^)
2018年11月29日 17:08
6 匿名の浦和サポ(IP:106.130.123.57 )
平川惜別。
更に人生を突っ走れ!
2018年11月29日 17:51
7 あ(IP:49.106.193.243 )
平川、啓太、暢久、伸二、長谷部、昔は静岡県出身の選手達が浦和で躍動してた時期もあったなあ。静岡出身サポとしてはあん時が一番思い入れが強いです(笑)
2018年11月29日 21:36
8 匿名の浦和サポ(IP:27.121.8.57 )
J1に拘らなければ、まだやれたろうが、ヒラが引退を決意したなら尊重する。
次は指導者を目指してほしい。
2018年11月30日 05:14
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