コラム

『仲川にやられ続けていた宇賀神を救ったピッチでの助け合い』Jリーグ横浜FMvs浦和【郡司聡の対戦相手から見た浦和レッズ】

今年より町田ゼルビア、浦和レッズを中心に取材するライター郡司聡さんによる「対戦相手から見た浦和レッズ」というコラムシリーズが浦議でスタート!
第5回はJリーグ横浜FMvs浦和戦になります。

 


 

▼仲川がいつもより攻撃的だった理由
1-2での敗戦を喫した試合後、3トップのセンターFWを務めた横浜F・マリノスの伊藤翔は、こう言って語気を強めた。

 

「前半からゴールを決めていれば、何ともないこっちのゲームだった」

 

ホームの横浜FMは、試合開始から数多くの決定機を創出。しかし、結果的には浦和レッズのセットプレーと最終ラインの背後を突く一発のパスに屈している。内容面でも浦和を凌駕していたことも含めて、伊藤の言葉は決して強がりではないだろう。

 

横浜FMのシステムは基本布陣の一つである[4-3-3]。今季から就任したオーストラリア代表の元指揮官、アンジェ・ポステコグルー監督は、ボールポゼッションにこだわったスタイルをシーズン開幕当初から一貫して崩していない。パスワークを基軸に相手を剥がし、ゴールを陥れるスタイルの中で、右ウイングの仲川輝人は、その爆発的なスピードで変化を加える貴重なピース。浦和の左サイドを攻略する形で18分と20分、そして22分に作り出した絶好機は、いずれも仲川の背後を突く動きとスピードあふれるドリブルが突破口を開いた形だった。仲川は言う。

 

「いつもと変わらずにワイドのポジションを取って、(右SBの)イッペイ(・シノヅカ)との関係を気にしながらやりましたが、イッペイは対人も強く守備ですごく助けてもらっていたので、あまり守備に神経を使わなくて済みました。そのぶん攻撃に意識を傾けながらやれたと思います」

 

浦和の最終ラインは、序盤から背後を突かれる恐怖心を抱きながら戦うことを強いられる。特に仲川とマッチアップした宇賀神友弥は、22分に仲川のスピードに振り回される形で背後を取られてシュートまで持ち込まれた場面に象徴されるように、仲川の破壊力とも戦わなければならない状況だった。日本代表MF天野純を中心に、横浜FMは仲川を使う意識が高かったことも含めて、序盤からトリコロールの19番が自由を謳歌していた。

 

しかし、決定機を逃し続けると、サッカーの神様はいつしかソッポを向いてしまうものだ。岩波拓也のゴール前でのシュートブロックや伊藤翔や仲川のシュートミスに助けられるなど、なんとか失点を許さなかった浦和は、43分にFKから絶好機をものにした。武藤雄樹のFKから生じたルーズボールを拾った宇賀神友弥は、人が密集するゴールへ慎重に右足シュートを流し込む。貴重な先制点奪取にもさほど喜びの表情を見せなかった宇賀神だったが、それには彼なりの理由があった。

 

「自分のサイドからたくさん相手にチャンスを作られていましたし、仲川選手にやられる回数が多く、『やられてしまっている』というメンタルの中、イージーなミスが続いていました。何とも言えない感情というか……喜べなかった。ゴールした実感もなく、やられたことしか覚えていないくらい、感触がなかった」

 

それほど宇賀神は仲川のパフォーマンスに強烈なインパクトを受けていた。しかし、前半の中盤を過ぎた頃から、次第に19番の存在感が希薄になったこともまた事実だろう。その背景を宇賀神の隣でプレーしている左CBの槙野智章は、こう振り返る。

 

「宇賀神選手が仲川選手とマッチアップする中で、『とりあえずお前が抜かれても、オレたちが守る』という話はしていました。難しい対応を強いられていましたが、宇賀神選手はうまくメンタル面をキープしながら戦ってくれました。ゴールを決めた上に、後半も彼の特徴を消すことができたのは、彼の経験が上回ったからです」

 

浦和としては序盤から自由を謳歌された仲川をこれ以上自由にしておくわけにはいかない。最終ラインの選手たちは、マッチアップする宇賀神のメンタリティーが戦える状態をキープできるように、コミュニケーションを図りながら、宇賀神が抜かれても誰かがカバーできる、チャレンジ&カバーの状況を徹底していたという。決定機を逃したことで、横浜FMが次第にパワーダウンしたことが影響しているとはいえ、仲川を封じるための手当てをピッチ上で施していたことが、前半の終盤の先制点につながった。槙野が続ける。

 

「相手には素晴らしい選手がいる中で、個人ではなく、グループで戦うことができたので、それは良かったと思います。僕は逆に宇賀神選手のメンタルの強さを感じました。ゴールを決めたり、しっかり修正できていましたし、それは彼がここまで積み上げてきた経験値が相手を上回ったからです。僕たちはアジアチャンピオンにもなっていますし、彼も修羅場をくぐり抜けてきています。今日の試合の雰囲気よりも、アルヒラルのアウェイのほうが、やりがいがあったし、それを耐え抜いたメンタリティーが彼を強くしたのではないでしょうか」

 

宇賀神の貴重な先制点は、必然の産物だったのかもしれない。

 

▼日本代表帰りの天野が感じたこと
1点をリードして後半を迎えても、試合の構図に大きな変化はなかった。ボール支配率で浦和を上回る横浜FMが前傾姿勢で浦和ゴールに肉薄し、対する浦和はカウンターでチャンスをうかがう。60分には武藤のスルーパスに興梠慎三が抜け出し、GK飯倉大樹を強襲する決定的なシュートを放っている。浦和のチャンスの回数が限定的である中、1-0で迎えた69分だった。天野のダイナミックな縦へのフィードから右サイドのスペースを遠藤渓太に使われると、ゴール前への折り返しから途中出場のウーゴ・ヴィエイラに同点ゴールを決められてしまった。

 

しかし、この日の浦和には“突き放す力”があった。1-1で迎えた79分、中盤のスペースで長澤和輝からパスを受けた青木拓矢が最終ラインの背後へ走り出す武藤へ正確なロングフィードを通した。「自分のアプローチが弱かった」と天野が猛省したのも、時すでに遅し。青木のフィードを受けた武藤は冷静に飯倉を射抜くシュートを決めて、浦和が突き放すことに成功した。

 

最終ラインがハイラインを敷くGK飯倉の前には広大なスペースが広がっていることは、J1のどんなクラブでも把握しているトリコロールの“アキレス腱”。浦和の選手たちが相手のハイラインの隙を突くことを十分にイメージしている中で、狡猾にゴールへと結びつけた青木と武藤のコンビネーションは見事だった。

 

1点のビハインドを負った横浜FMは最後まで猛攻を仕掛けるも、82分の伊藤翔のヘディングシュートは守護神の西川周作が阻止し、浦和は同点ゴールを最後まで割らせず。「今日は勝ち点3以上の価値があった」と槙野が話したように、負ければ残留争いにも吸収されかねない“6ポイントゲーム”を浦和はなんとか勝ち切った。このゲームの重要性を鑑みれば、乏しかった内容面は、もはや二の次だろう。

 

1ゴールに絡んだものの、“森保ジャパン”の一員として、チームを勝利に導けなかった天野は、試合後のミックスゾーンで浦和戦の敗戦をこう総括していた。

 

「これだけチャンスがあっても決めるべき場面で決めないとこういう試合になってしまいます。自分自身はもっと良いパフォーマンスを出さないといけない中で、代表に値するパフォーマンスを発揮できませんでしたし、終盤に違いを出すことができなかったので、すごく責任を感じています。サッカーは一瞬の隙で点を取られるものです。あらためてサッカーの難しさを感じました」

 

セットプレーと裏抜け一発のパスで相手の弱点を狡猾に突き、勝ち切った浦和に対して、負けた横浜FMにとっては、内容と結果がリンクしない、もどかしさばかりが募る敗戦だった。

 

※過去記事
・『甲府選手のコメントから見えてくる浦和レッズの強さと弱さ』ルヴァン杯 浦和vs甲府
『名古屋の選手達が「怖い」と言った攻撃の形とは?』Jリーグ浦和vs名古屋
『谷口が「強さを感じた」と認める浦和のストロングポイントとは?』Jリーグ浦和vs川崎
『前半多くのチャンスを作った磐田。ハーフタイムで的確な修正をした浦和。その要因とは?』Jリーグ浦和vs磐田

 


蹴球界のマルチロール・郡司聡

30代後半の茶髪編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクションを経て、2007年にサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部に勤務。その後、2014年夏にフリーランスに転身。現在は浦和レッズ、FC町田ゼルビアを定点観測しながら、編集業・ライター業に従事している。

コメント

  1. 1 匿名の浦和サポ(IP:49.97.106.88 )

    宇賀神、ゴールありがとうございます
    宇賀神のチャント、歌うのかと思ったが…

    このコメントに返信

    2018年09月19日 12:14

  2. 2 匿名の浦和サポ(IP:219.117.224.179 )

    ウガはユース出身で大学経由とはいえ生え抜きの選手なのになかなか人気が出ないな。
    来年はウガユニにするから頑張ってほしい

    このコメントに返信

    2018年09月19日 12:34

    • 2.1 匿名の浦和サポ(IP:49.97.96.47 )

      アカ◯パイセ〜〜ン
      パイセンはそうやっていつも批判してますが、実は選手を鼓舞してますよね。本当にて.れ.や.さ.ん。
      返信お願いしゃ〜す。

      2018年09月19日 17:42

    • 2.2 匿名の浦和サポ(IP:49.98.153.57 )

      「荒らし認定されて」ってまたパクりかよ。

      2018年09月19日 19:18

  3. 3 匿名の浦和サポ(IP:49.97.106.88 )

    フロントへ
    トップ、レディース
    主力選手を他のクラブへ出しすぎだぞ

    このコメントに返信

    2018年09月19日 12:37

    • 3.1 匿名の浦和サポ(IP:49.97.106.88 )

      長野選手、猶本選手、北川選手が移籍…

      2018年09月19日 12:58

    • 3.2 匿名の浦和サポ(IP:49.97.99.234 )

      塩越柚子歩がまだいるじゃないか!、、、

      2018年09月19日 16:34

    • 3.3 匿名の浦和サポ(IP:178.128.83.145 )

      塩越柚歩

      2018年09月19日 17:25

    • 3.4 匿名の浦和サポ(IP:1.75.197.202 )

      ア◯タくんキモ過ぎ

      2018年09月19日 19:15

    • 3.5 匿名の浦和サポ(IP:49.98.143.164 )

      ア◯タくんのポエムがw

      2018年09月20日 00:57

    • 3.6 匿名の浦和サポ(IP:118.22.105.20 )

      いつもの変態キモ過ぎ

      2018年09月22日 14:41

    • 3.7 匿名の浦和サポ(IP:49.98.151.241 )

      ア◯タさん、やめてください、そんなイヤラシイ目で私を見ないでください。

      2018年09月24日 02:16

  4. 4 匿名の浦和サポ(IP:182.249.242.6 )

    スレ違いの話題を出して嫌がらせの自己満をする浅はかアンチ。しょぼい人生だな

    このコメントに返信

    2018年09月19日 13:32

  5. 5 匿名の浦和サポ(IP:126.161.112.26 )

    槙野の発言が素晴らしいすぎる。
    まるでキャプテン。
    仲間のメンタルを支える素晴らしい選手。
    当に浦和の漢。

    このコメントに返信

    2018年09月19日 14:13

  6. 6 匿名の浦和サポ(IP:175.132.137.183 )

    決めるべき場面で決めないのは浦和も同じで興梠が決定機を2度も外している。
    浦和が2失点しなかったのはDF陣がシュートを打たれながらも体を当てたりして体を張ったらかでしょう。

    このコメントに返信

    2018年09月19日 14:55

    • 6.1 匿名の浦和サポ(IP:153.235.5.253 )

      興梠のは決定機かね?
      相手に完全に読まれてるから隙間なかったよ
      そういうのは決定機とはいわんだろ

      2018年09月19日 18:12

    • 6.2 匿名の浦和サポ(IP:126.35.158.233 )

      でもアレを決めるのが興梠ろであって
      アレを決めてくれないと今の浦和は勝てない

      2018年09月20日 07:27

    • 6.3 匿名の浦和サポ(IP:49.97.95.238 )

      武藤のパスからの場面が決定機でなければ、いったいどんなのを云うのかね。

      2018年09月20日 12:43

  7. 7 匿名の浦和サポ(IP:211.1.73.166 )

    んー。
    >>「仲川にやられ続けていた宇賀神」
    これが気になる。改善点が槙野の自己満守備なら、深刻な問題。

    このコメントに返信

    2018年09月19日 16:19

    • 7.1 匿名の浦和サポ(IP:153.234.89.85 )

      マルチノスの守備が問題なんでしょ!

      2018年09月19日 17:28

  8. 8 匿名の浦和サポ(IP:119.172.102.66 )

    札幌に青森山田の檀崎君取られちゃったけど要らなかった?

    このコメントに返信

    2018年09月19日 16:19

  9. 9 匿名の浦和サポ(IP:49.98.168.147 )

    北川ひかるが新潟に移籍かぁ
    猶本が出てって、長野も出てった
    トップは長谷部、元気が出てって、
    遠藤、関根も出てった
    勿論いろいろあるのはわかる
    でもあまりにも寂しいじゃあないか
    何でいい選手が、好きな選手が
    みんな出てっちゃうんだろ…
    猶本、長野、北川の移籍は
    ショックが大きすぎる…

    このコメントに返信

    2018年09月19日 17:40

  10. 10 匿名の浦和サポ(IP:114.158.105.140 )

    興梠決めれてないけど、あとは決めるだけのシーンを自分で作ってるのがスゲー。
    もちろん決めてほしいけどね。動き出し、前回の胸トラップ、頭良いし上手い。ヘディングでもかなり中盤から競り勝って繋いでた。

    このコメントに返信

    2018年09月19日 21:08

  11. 11 匿名の浦和サポ(IP:223.219.76.153 )

    宇賀神は序盤は常に2対1だった。サイドに張った仲川を見つつ、フリーでボールを持つサイドバック、或いはボランチを見なきゃいけない状況だった。チーム全体の問題。

    このコメントに返信

    2018年09月19日 23:05

  12. 12 匿名の浦和サポ(IP:121.114.166.37 )

    天野のコメント、昨年までの柏木のコメントそのもの。

    このコメントに返信

    2018年09月20日 18:47

コメントを書き込む