コラム

『幸運を結果につなげたaclでの逆転劇 相手の悪手を効果的に利用した堀采配』ACL浦和vs川崎【轡田哲朗のレッズレビュー】

▼レッドカードをキッカケに大きく動き始めたゲーム
浦和レッズは、afcチャンピオンズリーグ(acl)の準々決勝第2戦、川崎フロンターレ戦でラウンド16の済州ユナイテッド(韓国)戦に続くホームでの逆転劇を見せつけた。これで、ここ2年間で埼スタでのaclのゲームは9戦して8勝1分と圧倒的な強さを見せつけている。

この川崎戦に関しては、相手の車屋紳太郎が退場処分になったことをキッカケにして見せたスキを上手についた面が大きい。堀孝史監督の采配は10人の相手を冷静に見極めた上で理に適ったものだったと言えるだろう。

先週末のリーグ戦、柏レイソル戦に続き4-1-4-1システムでスタートした浦和は、11対11の時点では1-1のスコアだった。中盤の数的不利解消と前からのプレッシングを両立させる方策を取ったものの、それが大きく戦況を有利にしたとは言い切れない。ミスマッチで後手を踏み続けた状況を互角に持ち込んだというのが実際のところだろう。初戦は3ボランチの一角、第2戦はインサイドハーフでスタメン出場した矢島慎也は「11対11の状況で、狙っていた守備がハマらないところがあった。川崎のうまさを感じた」と話しただけに、難しい状況にあったのは間違いない。

しかし、川崎が10人になった時点で中村憲剛をベンチに下げ、ガードを固めた時点からの攻略法は、交代策の順番を含めて適切なものだったと言えるだろう。

▼サイドの枚数、カウンターのパターンに対して理に適った策
興梠慎三は、「相手が10人になって固めてきた時点で、サイドから攻めるのは鉄則というか、それが効果的なので」と、両サイドを積極的に使った攻撃に浦和の全体が意思統一したことを話した。それにより、特に後半に入ってからコーナーキックを大量に獲得して川崎に息をつかせない状況を作り出した。

そうした中で、ズラタンの投入を決断するが、その時に下げたのがマウリシオだった。センターバックのどちらかを下げるなら阿部勇樹という手もあるし、青木拓矢を下げて阿部を前に出す手もある。それでも、この日のセットプレーでの役割分担を見れば阿部がニアサイドへのフリーラン、マウリシオは中央での競り合いというものだったため、コーナーキックを何度となく獲得している状況では阿部を残す方が理に適っていた。もちろん、彼のチームに与える精神的な影響や、最終ラインからのボール回しという点も上手く利用したと思える。

この交代で浦和は3-3-4といった形にシステム変更したが、これは恐らく川崎がサイドを起点にカウンターを仕掛ける意図を見せなかったことも関係しているだろう。11人でピッチをカバーする時には、必ずどこかに”捨てる”部分が生まれるが、サイドの低い位置に選手を構えさせる必要性がないと残り時間と合わせて判断したのではないだろうか。実際には森脇良太と槙野智章も高い位置を取ったため、1-5-4のような状態になることもあった。もし、川崎がピッチに中村を残していれば、そのサイドの裏にボールを動かして浦和を後ろ向きに走らせるなど嫌な選択をしたかもしれない。しかし、そのピッチに中村がいないこと、さらに相手のカウンターが一発の中央突破に偏っている状況であれば効果的だ。これは相手を見た現実的な采配に映ったし、その「数の暴力」によって川崎を疲弊させていくことに成功している。

そして、コーナーキックからズラタンが追撃のゴールを決めた。少し下がりながらのボールへのコンタクトのためシュートスピードは出ず、そのボールが浮いている間ズラタンは「ハッとなって、ボールを見つめて凍り付いたようになったよ」と笑っていたが、彼は浦和に来てからの3シーズンで、途中出場から決めたゴールが11点目になる。スタメン出場が決して多いわけではないが、勝負強さを見せているのはデータからも明らかだ。

▼相手を疲弊させてから中央を増やす交代
さらに、猛攻によって与えた疲労により川崎のスライドが緩慢になったところで、矢島慎也を下げて駒井善成を入れた時点で3-2-5という形にシフト。インサイドにストライカー3枚を並べることで、エドゥアルドの投入と配置転換で強度を上げた相手の2センターバックに無理難題を押し付けた。その結果、ラファエル・シルバがエリア内で浮いた状況を作り、全体での同点ゴールを奪い取っている。

さらに4点目は、前任のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いていたころからの鉄板の攻撃パターンでもあった。右ストッパーの森脇良太がボールを持った時に、ズラタンがインサイドにカットインして相手の一番外側の選手を引き付ける。そして、森脇は浮いた大外の高木俊幸に浮き球を供給してフリーな状況を作った。結果的に高木は「当たり損ねがスーパーゴールになった」と苦笑いするループシュートを決めることになるが、狙ったのは中央への折り返し。隣の選手や走った選手に素直に出すのではなく、一人飛ばしてから本命を使うことで相手の視線をリセットしてギャップを作るという、チームに染みついた攻撃パターンが決勝ゴールを生み出した。

少なくとも、この川崎戦において堀監督は、相手の悪手につけこむ手、嫌がる手を打って逆転劇を引き寄せる采配を見せたと言えるだろう。サッカーが対戦型のスポーツである以上、基本的に相手にマイナスを押し付けることは自分たちのプラスになる。点を取るごとにボルテージの上がる埼玉スタジアムに川崎が飲まれていった部分も少なからずあるが、数的優位という突発的に生まれた有利な状況を、優勢ではなく勝利に結びつけた効果的な策は、素晴らしいものだったと言えるのではないだろうか。

※関連リンク
必殺スルーパスで風穴を開ける 矢島慎也を蘇らせた興梠の一言【轡田哲朗レッズレビュー/ACL準々決勝第2戦川崎戦】


轡田哲朗

1981年10月30日生まれ、埼玉県出身。浦和生まれの浦和育ちでイタリア在住経験も。9つの国から11人を寄せ集め、公用語がないチームで臨んだ草サッカーのピッチで「サッカーに国境はない」と身をもって体験したことも。出版社勤務の後フリーに。

  1. 匿名(IP:126.236.207.10 )

    俺らに夢を見させてくれ。またあの頃の非日常を味わいたい。

    2017年09月16日 00:18

コメント

  1. 1 匿名(IP:126.236.207.10 )

    俺らに夢を見させてくれ。またあの頃の非日常を味わいたい。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 00:18

  2. 2 匿名(IP:182.20.6.153 )

    この人システム論好きですね。それにペトロびっちはもう関係ないでしょうに。ACLなので結局、個が卓越しただけでは。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 00:50

  3. 3 匿名(IP:153.221.163.79 )

    マジですか、視聴情報を教えていただき、ありがとうございます。

    そして、上海アウェー戦も、勝ちに行きましょう。we are reds。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 00:55

  4. 4 匿名(IP:153.206.12.142 )

    これで上昇気流に乗れるといいけど
    川崎は去年までのお客さんなので
    トラウマで自滅感がある
    鹿島に勝ってこそ強くなったってことだろうね
    ミシャ>森保で広島が優勝したように
    ミシャ>堀でウチが優勝したいね

    このコメントに返信

    2017年09月16日 01:56

  5. 5 匿名(IP:183.180.67.110 )

    ※3
    流石にそれはない、感情だけで断定された意見なんて傍目から見れば的外れも良い所。
    個が卓越?個だけを見れば川崎もうちもそれほど変わりない。

    これまでやってこなかった相手を嫌がらせる為の戦術を選択し、
    相手が弱ったところで攻撃に優れていた前監督の戦術を堀が上手く利用して試合を決めた。

    今のチームで勝つためには前監督の遺産を活かすことは必要不可欠。
    現実を見なさい。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 02:11

  6. 6 匿名(IP:60.112.109.162 )

    ※1
    スポーツ中継は見れないんじゃなかったっけ?

    このコメントに返信

    2017年09月16日 03:51

  7. 7 匿名(IP:111.168.58.115 )

    これまでの停滞感を変えたのは間違いなくシステム変更にあると思う。長年メスを入れなかった部分にメスを入れたこと、大一番を前に行った監督の決断をまずは評価すべきだ。今後は選手がポジションに適材かの見極めを粛々と進めてほしい。槙野などは4バックの左は明らかに適材とは言えないので。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 07:05

  8. 8 匿名(IP:218.33.231.174 )

    本当に3バックなんてやってた?ズラタン投入で青木が一列下がり4-2-4、さらに駒井投入で4-1-5で、数少ない川崎の攻撃シーンでは青木がCBに入って終始4バックで守ってたように見えたけどな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 07:26

  9. 9 匿名(IP:126.199.14.104 )

    4-1-4-1をベースにして、試合の流れから変化を加えられたら良いね〜。あとは先制点、レイソルとの試合もそうだったけど、前半の流れで1点2点取れてたらまた違う結果になってたと思う。コロさん頼むぜ

    このコメントに返信

    2017年09月16日 07:30

  10. 10 匿名(IP:126.152.129.255 )

    テンパって後半開始3枚替えとか、いま思えば滑稽の極みだな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 07:34

  11. 11 匿名(IP:111.168.58.115 )

    やはり4バックをベースにした戦い方がベターだと思う。3バックは4バックに比べて応用が効かないのが難点。4-1-4-1は状況に応じて4-3-3にも4-4-2にも比較的スムーズに変更できるが、3-4-2-1は他のやり方を併用するのは結局出来なかったのが前監督だった。堀にはくれぐれも以前のやり方に戻すという愚は冒さないでもらいたい。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 07:48

  12. 12 匿名(IP:133.242.245.20 )

    >前監督の戦術を堀が上手く利用して試合を決めた。 今のチームで勝つためには前監督の遺産を活かすことは必要不可欠。  いまだにこんなこと言ってるしんじゃっぷりがイタイな(>_

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:18

  13. 13 匿名(IP:126.186.160.40 )

    6
    逆だと思うんですよね。
    前監督の遺産(方法論)を捨てたことが、状況を変えたという気がします。ここ2試合のやり方は紛れもなく堀監督自身のやり方。何でもミシャ監督に結びつけるべきじゃないと思います。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:23

  14. 14 匿名(IP:1.75.198.171 )

    4バックになったなら那須の出番がまたどこかで来そうだな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:24

  15. 15 匿名(IP:1.75.198.171 )

    遠藤ボランチにってよく聞くけどあの弱さじゃきついしパスミス意外と多いしやれるのかって思ってしまう

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:25

  16. 16 匿名(IP:133.242.245.20 )

    堀も無駄な6年間の共犯。そのことを就任会見で自覚していると発言してるのだから今季暫定の自覚はあるだろ。淵田と山道と一緒に12月2日のリーグ最終節が終わったら即刻辞任してくれ。天野と土田も辞めて、選手も半分は入れ替えて完全出直しな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:27

  17. 17 匿名(IP:1.75.198.171 )

    三枚交代はおかしいってのそらみんな思うよな。しかも後半いきなりなんて

    このコメントに返信

    2017年09月16日 08:34

  18. 18 匿名(IP:182.251.247.15 )

    遠藤はボランチ二人の布陣なら向いていると思う。敵が中に入れる縦パスをカットしてそのまま持ち上がれば決定的なシーンになる。でも後ろからのパスをもらってすぐ前にターンしてパスを出せる、しかも左右どちらでも、というのは青木のほうがうまいかな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 09:17

  19. 19 匿名(IP:182.251.247.15 )

    19 舐めたわけじゃなくて、気持ちが守りに入ったってこと。攻めまくると滅法強いが、守りにはいるとコロンと負ける。ウチと同じ。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 09:21

  20. 20 ウラワ(IP:115.65.225.73 )

    ワンボランチ遠藤はさすがに危険すぎるな
    阿部か青木と組ませないとやられるよな
    那須復帰は嬉しい宇賀神、那須、マウリシオ、森脇これで良いじゃん

    このコメントに返信

    2017年09月16日 09:51

  21. 21 匿名(IP:218.33.231.174 )

    4-1-4-1は、中村憲剛にフリーでスルーパス出されたアンカー横のスペースをどう埋めるか、あとサイドからのクロスにゴール前に入る人数が少ないと感じた。攻守にわたってインサイドハーフ2人の運動量とポジショニングが重要になるのかな。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 10:04

  22. 22 匿名(IP:1.75.211.251 )

    4バックなら那須とマウリシオのコンビで見たい。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 10:45

  23. 23 匿名(IP:126.236.207.10 )

    慣れ親しんだやり方に戻した所が良かったんだろうね。可変を辞めて、攻撃時のフォーメーションそのままで守ることにしたっていうのが今。そうすりゃ、ラファとか高木とか、より個のある選手をサイドの高い位置に置いておけるとの判断なのだろう。メリット、デメリットを考えながら使い分けられるといいね。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 10:55

  24. 24 匿名(IP:182.250.248.226 )

    いいね、ここ雑音が減って議論っぽくなってきたね

    このコメントに返信

    2017年09月16日 10:59

  25. 25 匿名(IP:1.75.211.251 )

    フォーメーションを途中で変えたっていうのはサッカーで別にめずらしいことではないんだけどこのチームに関してはすごくめずらしい事だったからもうそれだけでやっぱ変わりはじめてるというのを感じる

    このコメントに返信

    2017年09月16日 11:02

  26. 26 匿名(IP:110.165.147.102 )

    中村憲剛を残しておけばという声が多いけど、実際残すとすればどうすれば良かったのかな?
    大島だったら良かったのかな?

    このコメントに返信

    2017年09月16日 12:28

  27. 28 匿名(IP:124.140.148.76 )

    川崎の視点に立てば、1legで浦和に一点を与えてリードが実質1.5点になったこと、2legでアウエー先制後にだめ押しの1点を加点できなかったこと。この二つの時点で決定点を決められなかったことが、勝負のアヤだったのだと思います。
    アウエーゴールのH&A勝負は、浦和も昨年のソウル、鹿島、今年の済州と、いやというほど、いろんな授業料を払ってしまいましたからね。
    ただ、中韓のチームなら、仮に10人になっても、最後に逆転されてからの10分弱でも、絶対にあきらめてこないと思います。あの状況で、確実に守り切れるか、不要なCKを与えないか、最後にカウンターで一点取られ返したら・・・この辺りがACL次戦以降での課題ではないでしょうか。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 15:08

  28. 29 匿名(IP:122.213.201.194 )

    H&Aの戦いにおいてアウェイゴール制度を導入した意味が集約された2試合だったね。まさにスペクタクル。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 16:26

  29. 30 匿名(IP:113.159.126.67 )

    ※1 観れると決めつけるのは危険な匂いがします。番組によって制御するのは当然のことなので。

    このコメントに返信

    2017年09月16日 19:19

  30. 31 匿名(IP:1.75.236.129 )

    監督も自分のやりたいやり方をやればいいよ。

    このコメントに返信

    2017年09月17日 01:15

  31. 32 匿名(IP:36.8.152.19 )

    湯浅健二て、美しいサッカーだとミシャをあれだけ推しといて堀さんになったら今度は堀さんを推すのか。。罪深い野郎だな。ミシャのマイナス面もしっかり指摘して欲しかったな。

    このコメントに返信

    2017年09月17日 05:45

  32. 33 匿名(IP:111.168.58.115 )

    37
    人によってサッカーの見方は色々だが、プロのジャーナリストがミシャのサッカーは美しいという感覚が違和感を感じる。自分は逆にいびつな選手配置、攻守のバランスの悪さなど、全く美しさに欠けるサッカーと思ってしまうが。

    このコメントに返信

    2017年09月17日 10:30

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