コラム

浦和が横浜FMに勝利もリカルド・ロドリゲス監督が笑顔を見せなかった理由【清水英斗さん浦和レッズコラム】

今シーズンより清水英斗さんの浦和レッズ試合コラムが復活します!

 

■序盤、なぜ浦和のプレスははまらなかったのか

J1第36節で浦和レッズは、2位の横浜F・マリノスを2-1で下した。浦和にとっては直近5試合の対戦成績で1分け4敗と、大きく負け越してきた難敵だけに、ここで勝ち点3をもぎ取ったことの価値は大きい。

もっとも、試合内容はポゼッション率32%と、相手に一方的にボールを支配される苦しい展開だった。苦戦を示すのは、ポゼッション率だけではない。プレーエリアのスタッツでも、浦和のディフェンディングサード(自陣深いエリア)でプレーが行われた割合が43%、ミドルサードが38%、アタッキングサード(敵陣深いエリア)が19%だった。ポゼッション率と合わせて考えれば、浦和は自陣で守る時間が圧倒的に長く、防戦一方の試合だったことがうかがえる。

そうした試合になった要因は、主に二つある。

一つは浦和のプレッシングがはまらなかったことだ。この試合、浦和は最初から自陣にバスを置くつもりはなく、むしろ序盤はミドルプレスから前へ出て、敵陣でボールを狩ろうとした。そのねらいが成功する場面もあったが、それ以上に、横浜FMのビルドアップにかわされるケースが目立ち、押し込まれる展開が続いた。

なぜ、浦和のプレッシングがはまらなかったのか。

この試合、浦和は4-4-2ではなく、4-1-4-1の守備型を採用した。ユンカーや小泉佳穂がベンチ外となった影響もあるが、ボランチやサイドバックが5レーンを絶え間なく入れ替わる横浜FMのビルドアップに対し、4-1-4-1で5レーンを抑えて相手を捕まえやすくしたり、中盤の幅に人数をかけて縦パスを引っかけたりと、中盤を厚くできる守備システムを敷いた。これは良い対策だった。

浦和は1トップの江坂任と、その後ろに並んだ大久保智明、伊藤敦樹、関根貴大、田中達也の計5人がプレッシングを担う。対する横浜FMは、4バック+ダブルボランチの6人がボールを動かした。1人分の数的不利は、いつも通り、江坂が背中でパスコースを切りながら寄せて行き、瞬間的に1人で2人分を消す守備のスイッチにより、プレスをかみ合わせて行く。

ところが、そうやって相手陣内のペナルティーアークの先辺りまで追いかけると、横浜FMは伏兵が姿を現した。GKの高丘陽平だ。浦和が5対6でかみ合わせようとしたプレッシングに7人目が現れ、5対7にされると、GK高丘へのプレー制限はほとんど利かず、高丘を起点に1トップの江坂の裏、あるいはアンカーの平野佑一の両脇など、4-1-4-1の急所となるスペースを突かれる場面が目立った。

また、数的なかみ合わせだけでなく、横浜FMはエリアもコントロールした。左サイドバックのティーラトンが中へ入り、3ボランチのようになり、中へ集結する。その密集でも横浜FMはボールを失わずに保持することができ、浦和のプレスは徐々に中へ引き寄せられて行く。

すると、中へ寄せた後、再び空いた外へ。横浜FMが中でボールを回すうちに、浦和の田中や大久保らがサイドを離れると、横浜FMは中へ入っていたティーラトンが再び左サイドへ開いたり、喜田拓也が右サイドへ開いたりするなどして、空けたサイドのスペースを使い、ビルドアップという脱出ゲームに正解を見出していた。

さすがに、このスタイルで3年戦っているチームだ。今の浦和とは技術も戦術もレベルが違う。そこは認めざるを得ない。

ただし、そうやって第一ラインを突破されても、浦和はすぐにプレスバックして自陣でブロックを回復し、横浜FMが誇るアグレッシブなスピードを受け止めた。クロスを入れられる場面でも、岩波拓也やショルツはゴール前に下がって対応し、相手FW前田大然が得意とするDFとGK間のスペースを、徹底的に消した。

何度か岩波やショルツの前で、前田にヘディングを許す場面はあったが、それは損切りのようなもの。浦和は絶対に防がなければならないプレーと、やらせても構わないプレーを明確に切り分け、賢く対応したと思う。

プレッシングがはまらなくても、無茶な深追いをせず、下がって守備機会を増やす。この段階的な浦和の守備が利いたため、ポゼッションとプレーエリアの圧倒的な数字差の割には、横浜FMの決定機は多くならなかった。

 

■リカルド・ロドリゲス監督の視線はその先へ

もちろん、それでも横浜FM優位の試合だったことには変わりがない。『FootballLAB』が公開したゴール期待値によれば、浦和は0.632点、横浜FMは1.7点だった。この期待値をはねのけ、浦和が2-1で勝利したのは、運や決定力、セーブ力に助けられた面も大きい。

また、守る浦和と攻める横浜FMの試合構図が決定的になったのは、浦和のプレッシングがはまらなかったことに加え、早い時間帯にスコアが動いたことも大きかった。

浦和は前半18分、左サイドのペナルティーエリア脇で得たフリーキックを、江坂がグラウンダーで蹴り込み、横浜FMのゾーン手前で西大伍がフリック。ボールの軌道を変えると、さらにショルツも触り、2段の跳弾となったボールはファーサイドまで流れ、待ち構えていた伊藤敦樹が落ち着いて流し込んだ。

攻撃機会が少ない中で、浦和はセットプレーの決定機を見事に決めて1-0へ。劣勢だったチームが先にリードを奪ったことで、守る浦和、攻める横浜FMと、この試合の構図が決まった。仮に0-0のままか、あるいは先制したのが横浜FMであれば、この試合はもっとオープンになったはず。

実は少しだけ、その行き着かなかった未来をのぞいてみたい気持ちはある。

なぜなら先制した前半18分、浦和がフリーキックを得たのは、江坂のボール奪取がきっかけだったからだ。斜め後ろから喜田の選択肢を消しながら寄せて行き、喜田が一瞬、タイミングを逃した隙に、江坂は足をねじこんでボールを奪った。その流れから大久保智明がサイドから仕掛け、倒されてファウルとなっている。

また、序盤は横浜FMの縦パスの速さについて行けず、間を通されていた伊藤も、少しずつ縦パスを引っ掛ける場面が増え、横浜FMのリズムに慣れ始めていた。その後も伊藤は良いインターセプトが何度もあった。もし、0-0のまま、もう少し時計の針が進んでも、面白い展開になっていたかもしれない。

ただ、そうなる前に先制ゴールは決まった。

1-0となったことで、浦和のプレスは前へ出る勢いが弱まり、また、奪ったボールも素早くつなごうとせず、サポートに切り替える動きが遅くなった。全体的にバランスを保ってシンプルにプレーする意識が強まり、マインドは一気に1-0維持へ傾いて行った。

こうした流れも、勝負の綾と言うべきか。もちろん、現状の両チームの完成度を比較すれば、浦和が0-0でオープンに戦い続けるリスクはかなり大きかったと思う。この試合だけの勝ち点3を考えれば、浦和にとってはかなり理想的な試合展開だった。

その一方、やはりというか、リカルド・ロドリゲス監督に、この勝ち点3を手放しで喜ぶ様子はなく、試合後も厳しい顔を崩さなかった。現実的な駆け引きも厭わず受け入れる監督ではあるが、彼の理想から程遠い試合になってしまったのも確かだ。

ただ、たとえ現場の監督にとって苦々しい試合内容だったとしても、ファンやサポーターにとっては痛快そのものだったはず。耐えた。耐え切った。最後まで。苦労して勝ち取った勝ち点3だけに、喜びもひとしおだ。何でもそうだろう。危なげなく当然のように手に入るものより、苦労して苦労して、ドキドキしながらどうにか勝ち取った賞のほうが感動は大きい。高ければ高い山のほうが、登ったとき気持ちいいものだ。

それに今回は、阿部勇樹、槙野智章、宇賀神友弥と、大・功労者3人の引退と退団が発表された直後の試合だった。この日に勝ち点3を飾り、歓喜できた意味は大きい。その勝ち点3を苦労して、団結して勝ち取ったとなれば、そりゃあ嬉しいに決まっている。

しかしながら、浦和は今後も続いて行くわけで。せっかく高い山を登って勝ち点3を獲ったのに、すぐに転げ落ちてしまったら悲しい。現実的な戦い方とか、柔軟な戦術はとかくサッカーでは称賛されることが多いが、やはり明日を描くために、理想は大事だと思う。

勝ち点3を得ても、厳しい表情を崩さなかった。リカルド・ロドリゲスの理想と共に、浦和は残るリーグ戦2試合と天皇杯で、どんな試合を見せられるのか。

 

 

清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

コメント

    • 1.1 匿名の浦和サポ(IP:202.74.253.41 )

      清水戦の総括と横浜戦との対比分析をぜひお願いしたい。

      2021年12月01日 09:58

  1. 2 匿名の浦和サポ(IP:222.228.182.10 )

    もう天皇杯に集中しているから捨てたゲームだったが
    勝ってしまったってとこだろ
     
    だがこれで勝てたから新しいデータをリカが得たってことだ
    特に田中達也の使い方は難しい
    パスミスなど簡単なミスが目立つが得点時ポジションや得点能力はある
    3topのfwもしくはスパーサブがいいんじゃないか?
    スタメンで使うとガス欠になりやすいし

    このコメントに返信

    2021年11月30日 13:30

  2. 3 匿名の浦和サポ(IP:116.82.29.86 )

    田中達也は縦の意識強いから縦ポン裏抜けサッカーでワントップ起用とかいう安直思考

    このコメントに返信

    2021年11月30日 13:50

    • 3.1 匿名の浦和サポ(IP:222.228.182.10 )

      なんかいつも全力なんでガス欠が怖いよね
      強いチーム例えば川崎あたりとやって
      60分ぐらいから出したら一発仕事するんじゃないかと

      2021年11月30日 16:27

  3. 4 匿名の浦和サポ(IP:122.103.208.136 )

    読みごたえはあるよ、読みごたえはね。横浜に対して相当研究したんでしょう、対策バッチリ。それは認めるし、勝ちは嬉しかった。だけど、、何故完成度も強度も全く違う清水に対して同じ事するかなぁ?サポもスタメン見て「えっ、マジ?」と思ったはず。何だか、監督も選手もサポも、勝ちパターンが見えずに右往左往している感じ

    このコメントに返信

    2021年11月30日 16:35

    • 4.1 匿名の浦和サポ(IP:163.49.212.122 )

      誰に対して言ってるんだ笑

      2021年11月30日 17:00

    • 4.2 匿名の浦和サポ(IP:36.11.229.36 )

      まあ怪我人もそこそこいますし、色々試しているうちに徐々に完成度は上がると思います

      2021年11月30日 18:13

    • 4.3 匿名の浦和サポ(IP:36.10.235.67 )

      はっは(笑)確かにね。こういう所もこの人が自分で言ってるように右往左往してるんじゃね。まぁ、言いたい事は分かるって事で

      2021年11月30日 18:16

  4. 5 匿名の浦和サポ(IP:125.4.124.13 )

    田中達也は右ウイングで固定したら活躍する。
    右サイドはポジションチェンジをしないほうがいい。

    このコメントに返信

    2021年11月30日 17:03

  5. 6 匿名の浦和サポ(IP:123.225.221.131 )

    達也はボール取り上げられる展開では活きる
    逆に持てる場面なら0から仕掛けられる選手を使うべき

    このコメントに返信

    2021年12月01日 00:08

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