今シーズンより清水英斗さんの浦和レッズ試合コラムが復活します!
■想定外のプレーは驚きに変わる
サッカーのスタジアムには、俯瞰の神がいる。私たち観客や視聴者のことだ。ピッチに立つ選手、あるいはベンチに座る監督らとは違い、斜め上から全景を見下ろすため、全体の状況を把握して次のプレーを読みやすい。慣れた俯瞰の神にとって、ほとんどのプレーは想定内だ。
ところが時折、その圧倒的な認知優位にいる俯瞰の神でも、想像できないようなプレーを見せる選手がいる。思わず漏れる、「えっ? マジ?」。それこそがサッカーの、スポーツ観戦の醍醐味といってもいい。
私にとってその瞬間は、J1第33節の浦和対柏の前半45分に訪れた。
柏のロングボールを回収した浦和は、山中亮輔からボランチの平野佑一にボールが渡された。すると平野は、この斜め後ろから来たボールを左足でダイレクトに、浮き球で相手センターバックの背後へ蹴り出す。このパスが、飛び出したキャスパー・ユンカーへぴたり。この快速FWは、持ち出してゴール隅へ流し込んだ。
見事なタッチダウンパス。なぜ、そのパスが通ると思ったのか。ユンカーは飛び出す素振りを見せず、相手ゴールには背中を向けていたのに。それなのに平野はトラップもせず、ワンタッチで絶妙なパスを送っている。「えっ?」。俯瞰の神である私も、完全に虚を突かれてしまった。
平野佑一。この選手には1~2秒後の未来が見えている。
■比較すべきはあの名選手達
今回のアシストに限らず、平野はフリックパスを斜め後ろの死角となるスペースに通したり、見てもいない角度へ展開したりと、様々なパスをノールック&ワンタッチで通す。まるで1~2秒後、そのスペースに味方が入って来ることを、イメージで認識しているかのように。
キレを取り戻したユンカーのスピード、相手最終ラインの高さなど、イメージの前提となる情報はあったし、よくよく見れば、ユンカーも背中を向けてはいるものの、引いた片足にパワーを溜め、ターンを伺う雰囲気はわずかに出ている。
しかし、普通の選手はそのタイミングでパスは出せない。いつも一か八かでキラーパスをねらってミスが多い選手ならともかく、正確かつ丁寧なプレーをする平野は、全くそういうタイプではない。ユンカーへのタッチダウンパスも、「通る」という確信があったのだろう。
俯瞰の神を超える、パスセンス。このレベルのパッサーは、遠藤保仁や中村俊輔、昨年に引退した中村憲剛など、相当なビッグネームを探らなければ思い浮かばない。浦和は本当に、胸をときめかすボランチを獲った。
■相棒の柴戸も急成長
この平野とダブルボランチを組む柴戸海も、素晴らしいプレーを続けている。寄せが早くて鋭く、球際のボール奪取に魅力を持つ彼は、パッサーの平野とは正反対な選手だ。しかし、この2人はポゼッションとプレッシングでお互いの長所を活かし、短所を補い合うように、絶妙な凹凸ピースがかみ合っている。
一方で、あまりにも役割分担がハッキリしすぎると、対戦相手にねらわれる。たとえば攻撃時に柴戸がボールを持たされたり、守備時に平野の場所から仕掛けてきたりと、意図したプレーを仕組まれる恐れがある。
しかし、最近の柴戸は、柏戦の1点目で起点となる江坂任へワンタッチパスを通したり、2点目のPKを取る場所へ顔を出したりと、攻撃面でも大きな貢献がある。今季の序盤はプレーに積極性が無く、バックパスを選んでばかりだったが、もはや別人のよう。今の彼は、シン・柴戸だ。
また平野も、加入当初は期待を受けてスタメン起用されるも、フル出場は無く、いつも後半25分辺りでベンチに下げられるのが常だった。リードした終盤は、相手がパワープレーに来るなど球際の強度が上がり、カオスの時間帯になりやすい。そこで判を押したようにベンチに下げられるのは、平野に対して、強度や体力面の不安が大きかっただろう。平野は今季途中にJ2からJ1へ舞台を移したので、強度面の懸念は当然とも言える。
ところが直近2戦、G大阪戦と柏戦では、その平野がベンチに下がることなく、90分プレーした。彼は持ち味のパスだけでなく、球際への意識が高く、守備面でも良いプレーが見られるので、それなら平野をピッチに残し、最後までゲーム支配力を高めるほうがいい。そんな選択になっているのではないか。
ダブルボランチが盤石になると、試合が盤石になる。平野と柴戸のコンビ確立は、浦和好調の礎だ。
逆に、尖った特徴を持つ2人がここまで綺麗にかみ合うと、控えボランチ、特に今季途中までスタメンで出続けた伊藤敦樹にとっては辛い。ただし、来季ACLをねらう浦和だけに、ベンチを含めた戦力増は必須であり、何より川崎や横浜F・マリノスといった優勝候補を破るためには、さらにプレー向上が必要になる。
固まったものを、何度も混ぜ返し、チームは成長して行く。メンバーが固まってきた今こそ、新たな突き上げが欲しいところだ。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
1 匿名の浦和サポ(IP:111.239.180.163 )
遠藤保仁選手は想像以上のプレーをしてくれて敵ながら観ていて楽しかった。あのレベルの選手がでてくるとは思わないけど、平野選手には期待してます。
2021年10月29日 08:28
2 匿名の浦和サポ(IP:49.97.107.243 )
俯瞰の神を超える選手に、万能調味料の選手。今後、チームがどんな進化を遂げるか楽しみ。
2021年10月29日 09:13
2.1 匿名の浦和サポ(IP:1.75.203.245 )
受け手が良ければ出し手も良くなる
出し手が良ければ受け手も良くなる
ってことでしょうか
2021年10月29日 20:06
3 匿名の浦和サポ(IP:49.96.232.112 )
中位から下位チームには良いプレーが出来るがこれが上位チームにも出来るかが平野の課題だね。
次節川崎戦でその真価が問われるのだと思う。
2021年10月29日 09:27
4 匿名の浦和サポ(IP:133.106.33.30 )
ついこの前まで鷹の目とか言ってたのにいつの間に俯瞰とかいうようになったんだろ
2021年10月29日 09:32
5 何って言ったって浦和(IP:1.75.252.22 )
嬉しい限り終盤戦、万能調味料江坂選手が輝く闘いを、見守ります✨
2021年10月29日 09:56
6 匿名の浦和サポ(IP:106.154.177.20 )
清水(自分で名乗っているw)も平野も俯瞰の神であることには異論なし。ただ、違うのは清水は理論で平野は感覚というところ。
2021年10月29日 12:18
6.1 匿名の浦和サポ(IP:222.6.242.174 )
ちゃんと読んだ?
2021年10月29日 13:45
7 匿名の浦和サポ(IP:126.91.2.155 )
もし仮に「首振り」というスタッツがあるなら、平野は毎試合ダントツ1位です。それくらい敵味方のポジションを頻繁にチェックしていますね。
2021年10月30日 09:42
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