コラム

そこに立てば相手は出てこれないから:Jリーグ2021 vsサガン鳥栖 分析的感想【96のチラシの裏】

2020年9月より「96のチラシの裏」で連載されている浦和レッズコラムを浦議にも転載させていただくことになりました。
以下、96さんのコラムになります。


あれはレッドカード妥当。

両チームのメンバーと嚙み合わせ

 

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鳥栖ベンチ:守田、田代、大畑、酒井、本田、島川、石井

 

浦和ベンチ:彩艶、金子、大久保、柴戸、武田、明本、武藤

 

浦和は開幕節からは明本がベンチに下がり、田中がスタメン。開幕節から大きなメンバー変更がないということで、このメンバーが現状の主力組ですね。前節同様、最終ラインと小泉まわりのビルドアップの仕組みが上手く機能するかに注目です。

 

鳥栖はオフに主力をたくさん抜かれて、正直厳しいかなと予想していましたがいざ戦うとなると普通にそれなりのメンバーが揃っているように見えるから不思議です。特に前線は林や樋口といった昨年のキーマンが残っており、中盤の松岡、最終ラインのエドゥアルド、GK朴などセンターラインは昨年と同じメンバーで軸がしっかりしています。

 

で、鳥栖の配置なんですけど、どうも複雑なんで、僕の思考をたどる形で確認していきたいと思います。まずは試合前。

 

 

中野、エドゥアルド、ファン・ソッコの3バックに松下のアンカー、前線は2トップ2シャドーの3-1-4-2の予想です。オリヴェイラの時の浦和もこのシステムを使ってましたが、メンバーを考えてもかなり前向きなシステムで、このままの形で守るのは結構大変と言うか、最終ラインが晒されやすいシステムです。この形でやっていた2018年の浦和は最終ラインの迎撃、跳ね返しの力で戦っていました。で、実際のゲームで鳥栖がやっていたのはこんな形。

 

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浦和のビルドアップに対して仙頭が2トップと同じ高さまで上がって、3トップのように振る舞い、中盤は小屋松、松下、樋口の3枚が並んでいます。最終ラインは4枚並んでおり、4-3-3のような形に見えます。肝になる部分は並びだけじゃなくてもう一工夫あるんですが、それは後述。

 

で、鳥栖のボール保持の場合は、以下のような形。エドゥアルドとファン・ソッコ、そして松下の作る三角形がビルドアップ隊で、困ったら朴も使います。前線は2トップ+2枚のトップ下のような形で、一番最初の画像に近い配置です。中野と飯野は両サイドに張っています。ツイキャスでも話しましたが、ボール保持でもポイントは仙頭で、ビルドアップ隊を助けることと2トップ+2枚のトップ下となるボックスのサポートに入ることが大まかな仕事だと思います。ビルドアップでも崩しの局面でも+αとして仙頭が関わることで、浦和はどの局面でも枚数が一枚足りない状態となり、プレッシャーをかけきれない場面が頻発していました。

 

 

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で、最初僕は4-4-2⇔2-2-4-2の可変かなと思ってたんですが、監督・選手のコメントを見るとWBと言う言葉が連発されています。

 

DF 6 山中 亮輔

--前節・FC東京戦では阿部 勇樹選手や小泉 佳穂選手が下りて後ろを厚くしているイメージがあったが、今回はその形があまりなかったように見えた。別の狙いがあったのか。
やり方としてはそんなに変わりなく進んでいましたけど、そこのビルドアップのところでもう少し人をかけても良かったとは思います。ただ相手が5枚気味で守ってきて、ウイングバックがかなり前に出てきていたので、そこの背後を狙っていこうという話はしていましたが、なかなかつながらなかったですね。

 

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これとか、

 

FW 9 山下 敬大

 

--前節・湘南戦と違ってウイングバックも下がらずに高い位置でプレッシャーを掛けることができていたので、山下選手自身も下がらずに浦和のビルドアップに対して制限をかけることができていました。守備についての手ごたえは?
そのとおりで、試合が始まる前から監督を中心に選手でも話し合って、こういう守備をしよう、うまくいかなかったらこうしようというのは常に細かく話し合っていました。試合の中でも選手同士でもコミュニケーションをとっていて、FWがけん制をかけたり、ウイングバックが高い位置で守備をするというところはしゃべりながらできたので良かったと思います。

 

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これとか、

 

 

[ 金 明輝監督 ]

--浦和のビルドアップのパターンが多くなかったのもありますが、今日はウイングバックを下げずに高い位置からプレスを掛けてかなり制限できていたと思います。前節・湘南戦でやりたかった本来の形を表現できたと思いますが?
湘南戦は思いのほか、湘南さんがロングボールを多く使ってきたので自分たちの良さも消えてしまった。それが僕たちのやりたいこと、5枚なのか4枚なのかは別にして、4枚で自分たちのベースはあると思っているので今日に関しては、浦和さんの対策をするのであればこれが1つキーになるのかなと思ってトライしました。5枚とか4枚とかではなく、しっかりと良い準備ができて、特に守備の面では上出来だったんじゃないかなと思います。

 

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これとか。鳥栖側の質問者はたぶん同じ人で、普段から鳥栖を詳しく観ている人だと思います。金明輝監督のコメントはどうとも取れますが、本当は4バックが自分たちのベースだけれど、今日は5枚ベースを使ったということでしょうか。僕は観てないんですが、開幕戦の湘南戦も3バックだったみたいなんで、湘南戦を予習していればわかりやすかったのかもしれません。

 

で、僕の頭の中はまだ疑似的な4-3-3で守っていることになっているので、どうなっているかを確かめます。おそらくですが、実態は5-3-2(の変型)⇔2-1+1-4-2の可変だったのだと思います。ボール非保持では、確かに5バックっぽいシーンもあって、

 

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この場面では(状況もありますが)大外レーンを受け持つ仙頭、鳥栖から観て左サイドのハーフレーンを担当する中野という形が出ています。もちろん4-4-2で守っていても状況次第でこういう形は出てくるので、これだけで断定するわけではないのですが、コメントなんかも加味すると、5-3-2から小屋松が前に出て4バック気味になる形がメインだったんでしょうね。高木監督時代の長崎など、WBを前ズレさせて4-4-2を作るシステムはそこまで珍しくないですが、人選的にも2列目のイメージが強い小屋松がWB、SBだと思ってた中野が左のCBというのが理解する上で厄介でした。あと浦和がビルドアップに取り組んでることもあって、4-3-3気味の時間が長いのも分かりにくくなった要因かもしれません。

 

ちなみに、5バックで考えてもWB役の飯野はまあ良いとして、5バックの時に左CBになる選手が大外を取る役割を担うのは単純に移動距離が長すぎて非効率だろって思うんですが、それをやっています。しかもビルドアップ隊はエドゥアルドとファン・ソッコなんで、先入観のある僕はこれが2枚のCBだな、となるわけです。まあでもよくよく考えたら、ボールを奪って速攻ができない場面ではかなり時間をかけてビルドアップしていたので、この中野の移動距離を稼ぐという意図がチームで共有・整理されていたのかもしれません。それにしても17歳の選手にこの役割をやらせるのは凄い信用度です。で、浦和が2トップでプレッシャーをかけようとしても3枚のビルドアップ隊+GKの朴+仙頭がサポートしてボールを回すので奪えず、それならと潔くブロックを作ると2トップ+2枚のトップ下に加えて大外の選手+仙頭が入ってきて局地的に人数不利が出来るという感じで、浦和はかなりやりにくかったと思います。

 

というわけで、長くなりましたが鳥栖はこんな感じでボール保持/非保持とビルドアップの状況に応じて複雑にシステムが変形するように見え、少なからず浦和に混乱をもたらしたと思います。この鳥栖の配置と可変、そして選手の役割の持ち方って浦和のスカウティングはどこまで読めてたんでしょうね。

 

消された司令塔

 

ゲームは、全体的に鳥栖ペースで進んでいきます。浦和はこの試合も変わらずビルドアップからのクリーンな前進を狙っていたと思いますし、そうしようとしていたと思いますが、もしかすると開幕節よりもボランチを最終ラインに落とさないような形を考えていたかもしれません。わかりやすくボランチが最終ラインに降りたのは03:24前後のシーン(阿部がCB間に降りる)、15:50前後のシーン(阿部が槙野の脇に降りようとする)と飲水タイム直前の22:32前後のシーン(敦樹が岩波の脇に降りる)だったと思いますが、その他はあまりなく、35:43前後に阿部がCB間に降りるまではボランチが最終ラインの前でプレーすることが多かったように感じます。開幕節の分析もあって小泉を降ろし過ぎず、健勇の周囲でプレーさせることで決定機創出を狙ったのかなと思ったんですが、もしかするとスカウティング上別の狙いがあったのかもしれません。

 

ただこのやり方はあまりうまくいかなくて、鳥栖の第一プレッシャーラインを奇麗に超えることがなかなかできませんでした。鳥栖は上述の通り仙頭が第一プレッシャーラインに加わって3枚の壁を作っていますが、林、山下の2トップには壁になる以外にも仕事が与えられていたと思います。ゲームの中では林がその役割を担うことが多かったですが、下図のように自分たちの背後でプレーしようとするボランチのケアがタスクにあったようです。

 

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図にすると単純だけど、結構な集中力がないと続けられないタスクな気がする。

 

ゲームを通じて、林(と山下)はこの仕事を忠実に、何度もこなしていました。浦和の最終ラインにボールがある時は常に自分の背中に立つボランチの位置を確認しており、横パスが出るなどボランチ(特に敦樹)がポジションを動かすたびに素早いケアでそれを消し、浦和のボールが循環するのを防いでいました。これによって浦和はCBからSBへのパスが出ても、前方にしかパスが出せない状況に陥っており、開幕節で観られたような敦樹や降りてくる小泉を使った中央経由でのサイドへの展開や前進がなかなか出なかったように思います。もちろん小泉の個人技で相手を一枚剥がすなりずらすなりということは出来るので、そこからの展開はいくつかあったんですが、図のように浦和の両SBと最終ライン、そして中継点となるボランチにはマークを付けてある状態なので、展開した後にクリーンな前進が出来るかと言うと、そういうこともありませんでした。

 

前半浦和がゲームをコントロール出来なかったのは鳥栖のボール保持を制限出来なかったというところが大きいとは思いますが、自分たちがクリーンにボールを運べず、ペース作りが出来なかったことも大きそうです。この03:24前後のシーンも宇賀神が田中を裏に走らせる縦のボールを使いましたが簡単に回収されてしまっています。

 

浦和としてはこれくらいの対策にはうまく回答を示してほしいところなんですが、ボール保持がかなり窮屈な時間を長く過ごしてしまったかなという印象です。類似するシーンは05:12前後、15:50前後をはじめとしてたくさん出てくるので、観直してみるとよくわかると思います。

 

で、浦和のビルドアップを制限すると必然的に鳥栖ボールの時間が増えるわけですが、鳥栖は上述の通り2-1+1-4-2のような形で、仙頭がビルドアップと崩しの局面の両方の+1として振る舞う形。ビルドアップのサポートになっていたシーンとしては10:20前後、崩しの+1になっていたシーンは17:16前後なんかがわかりやすいと思います。

 

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仙頭によるビルドアップサポート
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仙頭が崩しの局面に関わる場合

 

この配置に苦労していたのは小泉と敦樹、田中、そして宇賀神で、マークで言えば大外に張る中野のマークは田中が見つつ宇賀神と共有する形でできれば良いと思うのですが、田中が中野を見るために下がり過ぎると自分の目の前に仙頭が降りてきてボールを受けるので無視できないし、それを敦樹に任せると敦樹の背中で2トップ+2枚のトップ下を同数で守っている関係で小屋松が空くし、そもそもビルドアップ隊に対しては小泉と健勇に制限してほしいものの松岡を気にしながらプレッシャーをかけても3枚の距離感が広く、ボール回しに追いつけないしと言う感じで、浦和はほとんど鳥栖のビルドアップを制限できませんでした。

 

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ちょっと鳥栖のやり方に対して浦和が無策だったという気もする。

 

根底にあるのはGKも含めたビルドアップ隊の安定感ですが、SBの立ち位置、仙頭の立ち位置によって浦和の守備組織を混乱させ、遅れてついて行けば次のポイントで外されてしまうという状況を再現性高く構築し、自分たちはその仕組みを理解しているが故に次の狙いを瞬時に共有し、相手よりも一歩も二歩も早く動き出せるという状況を作っていたのは素晴らしかったと思います。仙頭は顔を出すタイミングや場所を判断するのに頭を使ったと思うんですが、他の選手は型が出来れば後のことは自動化された状態でアタッキングサードまで行けるので、逆にシンプルだったかもしれません。こういうのが「ポジショナル」って感じだなあと思いますが、金監督が試合中に「(そこに立てば)相手は出てこれないから!」とコーチングしていた通り、彼のデザイン通りの現象がピッチ上で起きていたのでしょう。

 

というわけでビルドアップに加えてプレッシングもハマらない浦和は、前半の多くの時間で自陣に構える守備からロングカウンターを狙うこととなりました。鳥栖の両サイドはかなり高い位置に張っているので、トランジションでそこを突けば良いだろうということで、汰木が3回、田中が1、2回だったと思いますが、ドリブルでサイドを駆け上がっていく場面がみられました。ただ、最後のシーンではエドゥアルドを中心に鳥栖の最終ラインに対処されてしまいましたが。

 

選手の個性で味を変える

 

とはいえ、前半を0-0で折り返した通り、こうした立ち位置による優位性からどうしようもないゲームにされてしまったかと言えばそうではなく、鳥栖にいくつかビッグチャンスがあったのと同様に浦和にもゴールのチャンスはありました。ただゴール前に侵入できた場面で汰木や健勇が最後までシュートを撃ち切れなかったり、それが上手くミートしなかったりというシーンがあったように、どうしてもゴール前でパワー不足が出てしまうのは現在のスカッド(選手の個性)とチームの成熟度からして仕方ないのかもしれません。もう少し少ない人数で、クリーンに相手の一列目を超えてボールが運べるようになり、それが組織としての自信になってくればゴール前のフィニッシュワークに力を残しておくということも出来ると思うのですが、まだそれには段階が追いついていない感じがします。

 

簡単なやり方としては健勇をサイドに流れさせてロングボールで起点を作り、そこから人数をかけるとか、SHやトップ下、もしくは山中のような選手たちが追い越していく動きで相手ゴールに迫るというのもあると思うのですが、少なくともここまではそうしたやり方は見せていません。35分以降は阿部がCB間に降りることで明確に3バックを作り、連動して小泉が敦樹の隣まで降りてビルドアップを手厚くする、開幕戦で見せた形が多くみられるようになりましたが、ゲームの構造を大きく変えるほどの影響は及ぼせなかったと思います。

 

後半に入ると浦和は田中に代えて明本を投入。同時に鳥栖のビルドアップ隊に対するプレッシャーを強め、後ろをある程度空けてでもボールを潰しに行く姿勢を見せます。例えば浦和もシステム変更して5-3-2にしてしまえば相手のポジショナルな前進と2トップ+2枚のトップ下の4枚によるアタックにも同数以上で対応できるようになると思うのですが、そうしないのはスタイルの問題なんでしょう。それこそが哲学なので、それはそれでいいと思うのですが、勝負の面ではかなりリスクがある選択でした。47:23前後のシーンでは健勇の合図に合わせてフリーになっていたエドゥアルドに敦樹がプレッシャーを掛けますが、その裏で浦和の最終ラインが晒され、岩波の周囲に出来た数的不利をベースに小屋松と林のコンビネーションでかなり際どいシュートを撃たれてしまいました。

 

浦和が引かない姿勢を見せたことでトランジションが多くなり、ややオープンな展開が増えてくると、54:02前後には山中のクロスから明本のヘディングでの落とし、さらにこぼれ球にミドルで終わったシーン、55:44にはエドゥアルドから小屋松へフィード一本での裏抜け、57:00前後にはトランジションから樋口がフリーになりサイドへ展開、飯野が勝負も浦和がなんとか防ぐなど、ゴール前のシーンが少しずつ増えていきます。

 

で、先制は鳥栖。60分を目の前にして鳥栖は小屋松に代えて投入された本田が鳥栖の左サイドから突破をしかけ、小泉、宇賀神を躱して倒れこみながらシュート。こぼれ球を山下が押し込んでゴール。投入されてから3分程度しかたたずに仕事をした本田投入は金監督の采配を褒めるしかないと思いますが、小屋松と本田のプレーの特性の違いに浦和はまたも混乱させられたかもしれません。

 

本田の投入直後、59:25前後のプレーが象徴的ですが、左からのビルドアップで大外の中野にボールが出た場面、浦和は明本がエドゥアルド→中野と二度追いを見せますが、その背後では敦樹の判断を狂わす本田の素晴らしい動き出しがありました。

 

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これが本田のファーストプレー。これで勢いに乗ってしまった感じが。

 

同じような場面で前半出場していた小屋松は積極的に宇賀神の裏に入り込む裏抜けを狙っていましたが、本田はこの場面ではその動きをフェイントに弧を描くように中央へ。最初本田のケアに走った敦樹は中野のキックモーションと本田の動き出しを見て本田を宇賀神に任せ、自分は+1としてパスコースを作りに来た仙頭をケアしようとポジションを中に取ります。これによって中央で完全にフリーになった本田が中野からのパスを受けバイタルエリアに侵入し、浦和の最終ラインへ勝負を仕掛けていく、というシーンを作りました。得点シーンはこうしたプレー特性とは少し違うものが出ましたが、いずれにしろ金監督としては狙いが嵌りまくって楽しい試合だったのではないかと思います。おそらく、明本が出てきて前に前に来るだろうことがわかったので、その背後を本田に使わせる、と言うことだったのだと思います。

 

 

勝負の論理をいかに早く見つけるか

 

その後もトランジションの多い慌ただしい展開が続き、その中で81分にはトドメの2点目を山下に献上してしまうのですが、その中で浦和にも良いシーンがいくつかありました。最初に出たのは57:28前後だと思いますが、右サイドの宇賀神につけて、小泉に渡し、ターンから健勇の背後、最終ラインに仕掛けた汰木へのフィードのシーンなどがそうです。最初に確認したように鳥栖のディフェンスは前線に3枚使う分、中央をカバーするのは松岡だけになっていましたから、基本的に松岡のマークである小泉がサイドに流れてプレーするのは捕まえづらかったようです。そこで小泉の能力でターンして、比較的高いラインを設定している鳥栖の裏を汰木が使う形は鳥栖にダメージを与える上では良いプレーだったと思います。ただ出来れば、これを早い段階、できれば前半30分くらいまでに見つけて、チームとして共有しておきたいのではないかと思います。今節は鳥栖の準備が良かったとは思いますが、敦樹を消された状態で不自由なまま前半45分を使っているようでは、長いリーグを通じて安定したパフォーマンスを披露するというところまではたどり着けません。ベンチによるスカウティングや中にいる選手たち、どちらも重要だとは思いますが、相手を見ながらどこを消しに来ているのか、どこを捨てているのかを素早く判断することがやはり重要で、そうした意味では開幕節のFC東京は初級編、今節の鳥栖は中級編と言う感じで、ハードルが上がった試合だったのかなと感じました。結果的には、自分たちが有利に仕掛けられる局面を見つけるのに手間取ってしまい、試合時間をもったいなく使ってしまった試合だったと言えるのではないでしょうか。

 

その延長戦上にあるのが個人の質の部分で、今節は途中交代で武田と武藤が両SHに入りましたが、展開的にも能力的にも効果的とは言い難かったかなという印象がありました。二人とも良い選手なんですが、サイドで一枚剥がすというタイプでもないので、相当クリーンに相手を押し込んで、SBを使ったコンビネーションでペナ角を攻略するという場面を多く作り出せなければこの二人はSHでは使いにくい感じがします。そういう意味で、縦に勝負できる汰木と田中をスタメンで使ったのかなという気がします。ただ、かといってトップ下はビルドアップを助けられる小泉か、セカンドトップのように振る舞う明本かと言う感じで起用されているので、今のところ二人をこのポジションで観ることは出来ていません。この辺りも実験で、ゲームの展開や各選手の特徴、相手の特性なんかも踏まえていろいろと起用パターンを増やしていき、試合をこなした先にリカルド監督自身がこの選手にはこれを任せる、という起用策が固まってくるのかなと思います。

 

ベンチにもう少しサイドで剥がせる選手がいれば、アイソレーションから1on1を狙いとするパターンなんかももっと組み込んでいけると思いますし、自分たちだけが有利に勝負できる場面というのを探すうえでもヒントになっていくのかもしれないですが、そもそもビルドアップもまだまだなので、いろいろと時間がかかりそうです。リカルド監督は今節も開幕節も交代枠を5枚フルに使っていませんが、それも現状ピッチに送り出している選手を超えて、もしくは少し違う特性をうまく活かして使うイメージがまだないからなのかもな、という感じもします。しばらくは今節のように相手の対策を乗り越えながらビルドアップのスキルや相手の形や対策、噛み合わせの優劣を踏まえた勝負の論理を見つける部分を向上させ、徐々に相手ゴールに近いところでの課題に取り組めるようになっていくのを目指すという感じだと思いますが、最終ラインなんかはそもそも控えがいない状況で、今後リーグを戦っていく上では多少の不自由さとは付き合っていくしかないのかもな、と思います。

 

採点

 

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は4.0点。

 

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は4.0点。

 

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は3.5点。

 

今節は鳥栖の、というか金明輝監督の完勝です。なんだか試合後のコメントなんかを見ても金明輝監督は強い感じで来ていましたが、彼からすると自らが取り組んできたポジショナルプレーの土俵で、まだ公式戦3試合目の浦和に負けるわけにはいきませんよ、ということだったのかもなあと思いました。実際のところ、金明輝監督としては浦和がやりたいようなビルドアップの理想は共感できるでしょうし、自分自身で取り組んできたことでもあったと思います。それだけに肝になるボランチを消すことで苦労することがわかっていたのでしょうし、それは次節の下平監督も同様ではないかと思います。ただ横浜FCの前線は林のように犬走りできる選手があまりいない気もするので、同じやり方かはわかりませんが。

 

まあ、浦和としてはリーグ終盤の何かが懸かった場面でこのスタジアムで試合をしなくて済むという時点でポジティブなので、ホームで戦う後半戦で成長した姿を見せれやればいいのではないかと思います。

 

 

と言うわけで、今節はここまで。今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。また次節。

 

コメント

  1. 1 匿名の浦和サポ(IP:49.98.165.160 )

    サガン鳥栖のFW山下、獲ろう

    このコメントに返信

    2021年03月08日 11:37

  2. 2 匿名の浦和サポ(IP:49.98.165.160 )

    2021シーズン
    鬼門・鳥栖スタジアム
    終わってよかった

    このコメントに返信

    2021年03月08日 11:39

    • 2.1 匿名の浦和サポ(IP:220.99.173.15 )

      鬼門て本当にあるんだよね。それを打ち破るにはかなりの勢いが必要。
      今の内容ではまだまだです。
      でも、鬼門は打ち破るためにある!
      これからだ!!!

      2021年03月08日 15:13

  3. 4 匿名の浦和サポ(IP:49.98.158.118 )

    今季の選手の抜かれ具合と言ったら鳥栖よりも浦和の方が上でしょう。
    長澤、青木、マル、橋岡、レオ、エヴェ、鈴木、武富など主力クラスがゴッソリ抜けてますから。
    恐らく全チームで1番の草刈り場になったのが浦和だよ。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 11:50

    • 4.1 匿名の浦和サポ(IP:218.231.212.249 )

      試合見てもコレ読んでも現時点での戦術の熟成度の差であって、オフに退団した戦力の差とは感じなかったけどな。

      2021年03月08日 12:56

    • 4.2 匿名の浦和サポ(IP:113.154.7.204 )

      草刈り場か?自ら他チーム移籍は青木、長澤のみ、他は橋岡は海外へステップアップ、レオはお金を選び中国へ、他は戦力外通告でしょ?
      リカサッカーに合う若い選手にシフトチェンジしてると思うよ。

      2021年03月08日 16:31

  4. 5 匿名の浦和サポ(IP:126.167.98.143 )

    抜かれたというよりは、出したり、出ていった。だけど、皆さんに余り好かれていないマル結構効いてますよ。川崎から一点取った時も絡んでいるし。昨年は、チームコンセプトが上手くいっていなかったから、個の力で打開を図るしかなかったのでしょう。今、浦和にいれば一試合位勝っていたのでは。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 12:34

    • 5.1 ウラワ(IP:115.65.81.38 )

      確かに攻撃はね、じゃあ守備はどうなの?常に前からプレスかけてくれるの?疲れたら守備サボるはリカは求めてないと思うよ

      2021年03月08日 12:39

  5. 6 匿名の浦和サポ(IP:119.104.49.73 )

    死んだ子の年を数えても仕方ない。
    わずかの救いは3試合戦ってるのを見て昨シーズンよりは希望の持てる戦い方をしている点だと思う。

    それにしても興梠選手ら4人の復帰が待ち遠しい。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 12:39

    • 6.1 匿名の浦和サポ(IP:49.98.158.118 )

      3試合を見て思ったのが、戦術的要素は魅力的だが個の能力が低くこの選手達では戦術浸透性を加味しても残留出来るか不安だということ。
      今の浦和は戦術では埋めきれない選手の「質」に大きなハンデを抱えている現実に目を背けず向かい合った方が良い。
      あとね、ミシャ以降あのサッカーで残留出来たのは選手の「質」が高かったから。
      そのアドバンテージが無くなった今の浦和はホント危険だよ。

      2021年03月08日 13:39

  6. 7 匿名の浦和サポ(IP:60.147.229.244 )

    怪我人多すぎ!
    興梠、藤原はしょうがないとしても、西、デン、関根あたりは連戦なんだし、頼むから早く戻ってきて!
    また連戦で興梠のコンディションが落ちることを見越して、CFの補強は急務。加入後の戦術理解もあるし、夏の前にとりあえず1人は補強しないと残留争いに巻き込まれると今言っておく。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 17:00

  7. 8 匿名の浦和サポ(IP:126.167.98.143 )

    川崎は正式な怪我人登録も無いのね。どこまで上手くいっているの。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 17:56

  8. 9 匿名の浦和サポ(IP:124.212.16.181 )

    大島、長期離脱みたいだけどね

    このコメントに返信

    2021年03月08日 19:12

  9. 10 匿名の浦和サポ(IP:126.156.174.69 )

    勝ち点取ろうと鳥栖まで~♪
    出~か~けた~ら♪
    得点、忘れて、愉快~な浦和レッズ♪
    槙野が笑ってる~♪
    西川も笑ってる~♪
    る~るるるるっる~♪
    み~んな能天気~♪

    このコメントに返信

    2021年03月08日 21:53

    • 10.1 匿名の浦和サポ(IP:126.208.245.254 )

      別に面白くないし、とりあえずセンスが無い事は分かった。

      2021年03月09日 08:07

    • 10.2 匿名の浦和サポ(IP:125.12.177.47 )

      3番
      ボールを蹴ろうと走って 出かけたが
      打ち方忘れた 愉快な1億円
      スタンドが怒ってる 敵方は笑ってる
      ルルルルルル 今日も脳天気

      2021年03月09日 09:07

  10. 11 匿名の浦和サポ(IP:211.15.235.105 )

    96さんの分析は緻密ですごく勉強になるね。浦和の分析陣もこういったことは当然わかっているだろうから、それを踏まえて修正・トレーニングの繰り返しだね。一つ一つ積み上げ。それしかない。

    このコメントに返信

    2021年03月08日 22:02

  11. 12 匿名の浦和サポ(IP:217.178.100.199 )

    まあ個人の能力が足りなかったかな。
    パスがずれたり、トラップ流れたり、ドリブルが大きかったり。あー、ていう場面が何度もあった。全部綺麗にハマってれば鳥栖のプレッシャーくぐって3点くらいは取れてた印象かな。

    このコメントに返信

    2021年03月09日 01:59

  12. 13 匿名の浦和サポ(IP:49.98.163.1 )

    ピッチ上の現象を言語化してくれる人がいるだけでどれだけ救われることか
    単純に勝った負けた、強い弱いだけじゃないのがサッカーだわ

    このコメントに返信

    2021年03月09日 19:01