気がつけば、最後にコラムを書いてから、もう2年以上が経ちました。お久しぶりです。浦和を愛するみなさん、ごきげんいかがですか?
浦議から依頼を頂き、改めて月1ペースでコラムを書くことになりました。マッチコラムではないので、戦術以外にもさまざまなテーマに手を出そうと思います。
▼来シーズンはスタートダッシュが必要
今季14位に終わったクラブが、来季の目標を「ACL出場圏内」に設定したのは、あまり謙虚ではないかもしれない。
しかし、浦和のケースなら充分に巻き返せるだろう。2019年はACLの負担があまりにも大きすぎた。過密日程と選手の高齢化は、禁断の組み合わせだ。怪我のリスク、コンディション崩壊のリスクが、一気に高まってしまう。さらにそれが戦術固定型ではなく、人固定型のチームで起きると大変だ。過密、回復遅い、入れ替え困難の3連コンボで、浦和は苦しみの淵を彷徨った。
来季はこれらの問題が重ならない。2019年は天皇杯で早期敗退し、ACL出場権も取れなかったが、おかげでオフが長くなり、来季日程も余裕ができた。高齢化したメンバーでも乗り切れるし、ルヴァンカップを通して若いサブ組を強化することも可能だ。「ACL出場圏内」は現実的な目標だろう。
裏を返せば、もはや大槻毅監督に対するエクスキューズは何もない。オリヴェイラ監督の云々に始まり、クラブが複雑な事情を抱えさせた2019年とは違う。来季スタートダッシュの成功はノルマであり、追試でもある。
相手分析型の監督が、自チームをどこまで伸ばせるか。選手を気持ち良くプレーさせるだけでなく、道を示さなければならない。成熟したプロ選手を更に成長させられる監督は、実はそれほど多くはないが、大槻監督はどうか。
選手を伸ばす資質がない監督では「3カ年計画」にも不適格だろう。2019年は日程的に練習が困難だったことはわかる。だが、もうエクスキューズはない。序盤でダメとわかれば、すぐに体制を代えられるようにクラブは準備するべきだろう。もちろん、それは安直な内部昇格を意味しない。
▼どこまでリスクを取って勝負できるかどうか
選手補強はどうなるか。新強化体制記者会見では、「FWとDF」が補強ポイントに挙がった。断られたとはいえ、サイドバックの杉岡大暉と原輝綺にオファーを出したのは、若返りと同時に、4バック移行の意志があるかもしれない。
アグレッシブに攻守の切り替えが早いサッカーを志すなら、4バック系はバランスを整えやすい。「浦和のサッカー」はあまり明確ではないが、これまでに見てきたサッカーの印象、サポーターの反応を見ていると、4バック系で力強い守備と速攻をベースにしたほうが、クラブ像には合致するように思える。ユルゲン・クロップやディエゴ・シメオネのサッカーが理想像だ。その場合、選手の評価も多少変わり、ポジションも変わるだろう。たとえば関根貴大は、4-4-2ならセカンドトップなどに新たな可能性が広がるかもしれない。そうした戦術の転換も来季の見どころではないか。
また、戦術ではなく、戦略的に言えば、大きなキーワードは「リスク」だろう。
大槻監督の采配傾向は、堅い。リスクを好まない。たとえば横浜F・マリノスやアル・ヒラルにハイプレスをかけられたとき、あるいはヴィッセル神戸などにボールを持たれたとき、思い切って剥がす、思い切って奪いに行く、というチャレンジが無かった。基本線は「耐える」。ハイプレスに耐える。ポゼッションに耐える。同スコアなら、そこで我慢する。先にアクションを起こさない。
トーナメントはそれでいい。だが、上位をねらうチームのリーグ戦略としてはアウトだ。引き分けは2つで、勝ち点2。リスクをかけて1勝1敗の痛み分けなら、勝ち点3。リーグ戦はリスク選好のほうが高みにたどり着く仕組みになっている。もちろん、リターンの無いリスクをかけても意味がないので、そこは積み上げる必要があるが。
2019年はコンディションや練習不足の問題があり、始めから選択肢が少なかったのかもしれない。しかし、繰り返すが、来季はエクスキューズが何もない。大槻監督にはリスク選好、攻撃選好の闘い方を仕上げてもらいたいところだ。また、その確信があるからこそ、クラブは続投をオファーしたはず。
▼若手に魅力的と思われるクラブへ
高みへの道。世界への道。来季は「道」を作らなければならない。
世代交代とか、様々な課題はあるが、色々なものは一度には追えない。杉岡や原にオファーを断られた件に表れるように、今の浦和は即戦力の若手が魅力を感じるクラブではなくなった。「道」がないからだ。
革新性を打ち出すクラブが増える中、相対的に古豪化しているのが、今の浦和の姿だ。この古臭いイメージを払拭しなければ、「3カ年計画」も腰砕けに終わる。若手が魅力を感じないクラブに未来はない。
来季の目標は「ACL圏内」でいい。それだけの力はある。しかし、若手に嫌われがちという現実については、クラブはもっと、もっと謙虚になったほうがいい。変わらなければならない局面を迎えたことに気づいているのか、もしかして変わりたくないと思っているのか、そうした可能性が怖い。
Jリーグはゆでガエルを脱した。しかし、浦和はまだ鍋の中にいる。
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
匿名の浦和サポ(IP:218.225.231.15 )
何も反論できない。
浦和がゆで上がるか脱するか、20年が勝負。
2019年12月31日 12:24