サッカーライター郡司聡さんが浦和レッズと対戦した選手たちへの取材をもとに「対戦相手から見た浦和レッズとは?」をテーマにした原稿を浦議で連載していただくことになりました!
▼矢島のコメントどおりな前半の試合内容
「最後は3連勝で終わろうとチームの中で話していた」
キャプテンマークを巻く日本代表CB三浦弦太がそう話したように、3連勝でシーズンを終えることが一つの合言葉だったガンバ大阪は、一筋縄では倒せない相手だった。
開始9分、浦和のボールロストを出発点として、縦に速いトランジションでG大阪がカウンターを発動。菅沼駿哉、小野瀬康介、アデミウソンとダイレクトにパスがつながり、フィニッシュはスプリントでゴール前に走り込んできた宇佐美貴史が右足シュートを流し込んだ。
開始早々に先手を奪ったG大阪は、遠藤保仁をアンカーに配した[3-5-2]([5-3-2])を採用。遠藤がアンカーの位置で配球し、インサイドハーフの矢島慎也と倉田秋が柔軟にポジションを変えながら、「相手の立ち位置をグチャグチャにしようとした」(矢島)。
一方の浦和レッズは守備時には従来どおり、[5-4]でブロックを構築。スペースを消すことでG大阪を窮屈な状況に追い込もうとした。しかし、浦和の“慎重策”はあまりにも無力だった。
「ヤットさんを起点に、前でボールを動かせる配置を周りも取りつつ、そこから自由にボールを動かすことをベースとしてやっている」(倉田)。特に長短のリズミカルなパスでチームの動きを司る遠藤をフリーにさせたことは、相手に振り回される展開を助長することにもつながった。さらに2トップの一角であるアデミウソンが背後への恐怖を植え付けつつ、引いてボールを引き出す動きで翻弄したことにより、浦和はボールにも人にもプレッシャーが掛からない状況に陥った。「スペースが空いているので、そこに走っているだけだった」とは矢島のコメントである。
18分、矢島が左サイドのスペースへ走る藤春廣輝へ展開し、左サイドを破る形からG大阪が絶好機を構築する。3度迎えたボックス内でのチャンスに対して、二度、西川周作のファインセーブに阻まれると、三つ目のフィニッシュは矢島が痛恨のシュートミス。「タラレバになるけど、前半でもっと点を取れていれば、もっとラクな試合になった」。倉田がそう振り返ったように、浦和は相手に助けられる格好で、1失点以上の傷口を広げずに済んでいた。
▼攻撃は偶発性が高いものばかり
0-1で迎えた後半、浦和は中盤の中央を3ボランチ気味に変更。柏木陽介、青木拓矢、柴戸海で形成された3ボランチは、逆三角形を組むG大阪の中盤中央とマッチアップする格好となった。G大阪の効果的なパスコースを遮断しつつ、少しでも遠藤らにプレッシャーを掛けることで、チームとしての機能性を落とそうと目論んだ。また柏木が一列下がったことで、よりボールに触れる状況を創出し、チームとしてのリズムを作り出す狙いもあった。
大槻毅監督の用兵は62分、レーザービームのような岩波拓也からのフィードを出発点に獲得した直接FKを、柏木が決めたことで奏功したかに見えた。しかし、追いついた直後の64分、宇佐美のCKから三浦がフリーでアデミウソンに落とすと、アデミウソンが勝ち越し点を奪取。再びG大阪がリードする展開となった。
3ボランチ気味の布陣は、オズワルド・オリヴェイラ監督が主戦システムとして採用してきた布陣。そのため、浦和にとって“ぶっつけ本番”の要素はそこまで強くなかったものの、矢島にしてみれば「僕たちはほぼこれでやっている分、完成度はこっちのほうが上」という自信があった。
それを証明するかのように、G大阪が奪った3点目のゴールは、浦和にとって屈辱以外の何物でもなかった。88分、中盤で宇佐美、遠藤、矢島らがボールを動かしながら浦和を翻弄し、機を見て後方の三浦にパスを預けると、三浦は山中亮輔の背後を突く福田湧矢へロングフィードを通した。こうして山中の戻りも及ばず、浦和は福田に追加点を献上。密集地帯を作って相手をおびき寄せ、奥行きのあるボールの動かし方で浦和を仕留めた3点目の形は、G大阪が「ずっと練習してきた形」(三浦)だったという。矢島は言う。
「宇佐美くんとヤットさんと三角形を作りながら真ん中で時間を作って、(三浦)弦太くんに時間ができた中で、弦太くんからのフィードは、全体練習のあとにやってきたこと。それがハマってゴールにつながった」
こうしてスコアが1-3に広がると、終了間際の90分。浦和は岩波のロングボールから最後はファブリシオが右足シュートを決めて1点差に追いつく。しかし、試合は無情にも2-3でタイムアップ。4万7,188人が詰めかけたホーム最終戦の埼スタで、“有終の美”を飾ることはできなかった。
試合後、柏木は6試合ぶりに複数得点が取れたことをポジティブな要素として挙げていたが、柏木の直接FKも岩波の超絶ロングフィードがなければ生まれなかったし、2点目もロングボールからの展開と、やや“偶発性”が高いものだった。一方の守備面では人数を割いてスペースを消しても、遠藤を中心としたG大阪のパス回しに翻弄されたことは決して無視できない問題点である。
チームとしての確固たる軸を持たず、対戦相手を綿密に分析し、ピッチで戦う選手たちにその都度、“相手ありき”のプランを授ける“ゲームコーディネーション”に重きを置いたチーム作りがスタートして約7カ月。G大阪後の岩波は「試合を終えても、何が残ったんだろうという試合もあった」と話し、積み重ねに乏しいシーズンの苦しさを独特の言葉でそう表現していた。
シーズン最終戦を迎え、「やっと自分たちの攻撃の仕方を、考えなくてもできるようになってきた」(倉田)G大阪に対して、“大槻レッズ”には何が残ったのだろうか。2-3という僅差のスコアに隠れがちだが、浦和とG大阪の間には、明確なチーム力の差があった。その事実だけは、決して揺るがない。
蹴球界のマルチロール・郡司聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクションを経て、2007年にサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部に勤務。その後、2014年夏にフリーランスに転身。現在は浦和レッズ、FC町田ゼルビアを定点観測しながら、編集業・ライター業に従事している。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド・刊)。
匿名の浦和サポ(IP:111.239.172.191 )
そう、得点は偶然、失点は必然、というのが多過ぎた2019年。更には他チーム(降格した磐田でさえ)は、シーズン終盤には完成形が見えたのに、浦和はどんどん劣化していった印象。
2019年12月10日 18:05